「日英交流コミュニティケアシンポジウム」参加報告v2

2000.10.29 岡安喜三郎

[I].日時、場所、人物等

 日時:2000年10月11日(木) 1:00PM〜4:40PM、場所:世田谷区・砧区民会館ホール
 主催/世  田  谷  区
    社会福祉法人 世田谷区社会福祉協議会
    社会福祉法人 世田谷区社会福祉事業団

【講演】「英国におけるコミュニティケアの現状」
ブライアン・ロイクロフト氏(イギリス・アルツハイマー病協会理事長。コミュニティケア、老人ケアのイギリス政府顧問。イギリス・エイジコンサーン会長)

【シンポジウム】「日英両国のコミュニティケアを考える」
◇コーディネーター
竹内 隆仁氏(日本医科大学教授)
◇シンポジスト
ブライアン・ロイクロフト氏(上記)
クリストファー・ドリンクウォーター氏(ノーザンブリア大学教授、家庭医(GP)。高齢者のためのプライマリーケア、コミュニティケア改善に取り組む政府対策グループの副委員長)
ラルフ・ファース氏(ノーザンブリア大学教授・副学長、ヘルス・ソーシャルワーカー教育)
トニー・メトキャーフ氏(ニューキャッスル市社会福祉局企画室長)
上野谷加世子氏(桃山学院大学教授、中央社会福祉審議会臨時委員)

【予備知識】
 ニューキャッスル市はイングランド北部のノーザンブリア地方の中心都市。最初の蒸気機関車の町。竹内先生は1993年のコミュニティケア実施後、毎年この町を訪れ、コミュニティケアおよびケアマネジメントの研究・実践体験されている。

[II].シンポジウム概観

 シンポジウムに参加されたイギリスの専門家4人は、コミュニティケアとは実践的にチームケアとの信念と確信の上に、それぞれ ○ GP(家庭医)の立場、○ 教育に携わる立場、○ 行政の立場から発言をされた。コミュニティケアの実戦が立体的に紹介されたのは今後の日本のコミュニティケアを実戦し定着させる上で大変参考になる、興味を惹くシンポジウムであった。コミュニティケアを支える社会基盤は日本のそれと比べてあまりにもレベルが高い。シンポジウムに参加して、日本で急にどうのこうのとは行かないとは思うが、めざす方向ははっきりしたと思われる。
 尚、講演および本シンポジスト報告には「原資料」はなく、筆者がメモしたにすぎないことをお断りしておきます。したがって、シンポジウム報告者にあらぬ誤解が生まれたとしたら、それはひとえに筆者の責任に帰することを申し添えます。

【講演】「英国におけるコミュニティケアの現状」
〜コミュニティケアは継ぎ目なきチームケアであり、地域のあらゆる資産が活用できること〜

ブライアン・ロイクロフト氏

 ニューキャッスル市は、世界で初めて蒸気機関車を走らせた町。蒸気タービンもそう。鉄の船も造り、日本からも買い付けがあった。日本はその船でロシアと戦った。今は日産の工場がある。
 1946年に、NHS(ナショナル・ヘルス・サービス)が誕生した。その後ソーシャル・サービスが始まり、コミュニティケアが始まった。このコミュニティケアの担い手としてGP (General Practitioner) が特徴的である。
 1993年の「コミュニティケア法」(国民保健サービスおよびコミュニティケア法)の実施前でも、コミュニティケアは存在してはいたが、それがチームケアとして定着してきたのはここ7-8年である。コミュニティケアは実践的にはチームケアであるというのがポイントである。
 本当のチームをつくる原則を6つ紹介する。
1) 継ぎ目のないサービス(シームレス・サービス)/医者、保健婦、ナース(看護婦・看護士)、ソーシャル・ワーカーetc.
 ケアの中心は患者であり、その周りにすべてがチームをつくる。所属が違ってもチームをつくる。
2) あらゆる面からのアセスメント/長期ケア、リハビリ等のニーズ。
 チームとしてアセスメント、これは家族に対しても → これで計画ができる。
 さらに将来何が必要になるかを踏まえたケアに! ex. 5年後、10年後の治療
3) 患者とその家族のニーズにも配慮/身体、精神、家族
 重点が家族介護者のサポートということもある。
4) これらの実施責任者がケアマネージャー/チームのキャプテン
 多くはソーシャル・ワーカーであるが、ナースでも誰でも良い。
 ケアマネージャーは、移送等に関しても時間とか、実践的に見る必要がある。
5) コミュニティケアシステムとは、地域にあるあらゆる資源が活用できることにある
 行政、NPO、民間、ボランティア → これらが統合されること
 様々に患者を代弁する → 行政等へ。
6) 行政はあらゆる障害の人にケアをする計画を立案すること(責任)
 ケアの質の担保のために、「規制」を設定することが大切である。

【シンポジウム】「日英両国のコミュニティケアを考える」

<クリストファー・ドリンクウォーター氏>「GP(家庭医)の立場から」

 (前提:英国では国民はすべてGPに登録している。第1次的には相談、診察(往診)。必要が有れば専門医を紹介するなど、GPは地域医療サービスの門番役を果たしている)
 コミュニティケアにおけるGP(家庭医)の位置は大変重要である。実際のGPの場を紹介しよう(写真スライド<竹内先生のコメント>「GPはちょうど日本の診療所と保健所を併せ持ったもので、『地域センター』の様なもの」)
 GPはニューキャッスル10万の人口に60人いるが、器具やレジャーの機会をを通じた自立促進、早い時期に問題を見つけ、ケアと通じて治していくことなどを行っている。リソース・チームとして「地域高齢者リソースチーム」
 GPのチームは、ソーシャル・ワーカー、専門医、理学療法士、作業療法士、言語治療師、保健婦、精神科ナース、等々でつくられる。
 我々が注目するのは、ひんぱんに転倒する人、介護ストレスの人、説明不能な悪化の人、副作用のある人等々である。
 今後は何が必要かと感じていることは;
 ニーズに関するよりよいデータの蓄積
 GPチームの能力向上
 調整のフレームの合意

<ラルフ・ファース氏>「ヘルス・ソーシャルワーカー教育の立場から」

 コミュニティケアの変化がある、その変化に対応するためには;
  1) 専門家の姿勢
  2) 専門家どうしの協力、トレーニング
  3) 教育の正しさ、行政・ユーザーの意見の取り入れ
 が必要であろう。
 過去の伝統的教育は、(アセスメントは)質問形式であった。質問型は事情聴取型とも言える。一人の専門家が質問を行っていく。そうすると、判断はその(一人の)専門家の範囲内でしか解決策がない。悪い言い方をすれば、その専門家の能力とニーズでケアの内容が決まってしまう。専門家が理学療法士だとすると、ケアにその部分が増えることが生じてしまう。
 我々が進めているのは「交換モデル(Exchange Model)」といい、アセスメントに参加する各人は自分の知識を持っているというモデルである。被介護者、介護者、専門家、等の重なったところに解決策が有る。」
 本来、誰からサービスを受けるのかは問題ではないはず。サービスの質がよければの話だが。
 我々は現在、ソーシャル・ワーカーの教育において、個別の「科目」を教えるのは止めた。今ではケース・スタディで教育している。1人のユーザーに対しケアプランをどう作るかを討論する。それを発表する。
 ソーシャル・ワーカーの焦点は適性である。大学だけでソーシャル・ワーカーの教育をすることは許されていない。ケアを実施している機関との協力が必要となっている。
 コミュニティケアには継続的評価が必要。変化があれば尚更のこと。

<トニー・メトキャーフ氏>「行政担当者の立場から」

 ユーザーからの電話の問い合わせが多いが、スクリーニングが大事である。単なる問い合わせや情報入手のためのものもあり、地域のボランティアでできることもある。
 簡単なアセスメントの必要な場合には、医者と保健婦のパートナーシップでおこなうが、必ずナースの同行を求める。複雑な場合は「チームでのアセスメント」
 OT(作業療法士)や家の改装、補助具などのニーズが高まっている。
 専門性の高い分野は、NPOのサービスを市が買って提供する。たとえば、アルツハイマー病など。
 1993年以降は、保健・医療当局との連携を深めてきた。この連携を法律で定めようとの動きがある。2〜3年後は統合し、窓口一本化へ。行政の方が医・保健当局のサービスのチェックにも入る。こんなことも始まる。利用者・地域の人を弁護する、それを担保しようとする動き。
 いま英国政府は、施設ケアはコミュニティケアではないという見解に変わってきている。その点は竹内先生の見解と同じだと思う。要入院が多くなると既存入院者を早期退院させるという、悪循環が起きているとの政府の指摘。
 英国政府は99/00年度に成人のために6千万ポンドの予算を計上した。
 現在地域にサービスはあるが、地域均等ではない。英国政府の予算で、サービスの拡散化、均等化を図りたい。

<上野谷加世子氏>

 5年前にニューキャッスル市を訪問した。市のパンフレットに「アセスメントに関してあなたはこういう権利があります」と記述してあった。顧みて、日本では「市はこういうことをやります」という言い方が多い。
 私の言いたいことは今回の変化は「基礎構造」の改革なんだということ。教育、住宅、国土、暮らし方、これらの構造を変えることなんだということである。
 措置による福祉のパターナリズムを契約に変えた。今までの「依存型」から「対等型」に変わったのであるが、人間は弱い。対等の担保がなければならない。ここに情報開示の必要性が生まれる。
 この制度を発展させる、維持する社会的な力は、情報、苦情を具体的に言える仕組み、人材育成であろう。
 「なんでも病院で完結する」のに慣れすぎているなかで、在宅、地域ケアの必要性を認識し、「私たちがつくる」がないと、実は進まないと思う。自分たちでやる!−これが社会福祉の概念の一新であり、「基礎構造改革」。
 介護保険の危険性についてひとこと言うとすると、「介護事業者への新たな依存」ということではなかろうか。それを回避し、真のコミュニティケアを実現するには、NPOを様々につくることだろうと思われる。

質疑応答-------------

【ニューキャッスル市での意見をつかむ具体的仕組みについて1】

ユーザーズ・グループ 代弁 → 市へのアドバイスともなる
実施介護者グループ
グループの会議開くにも金がかかる。交通費、手話通訳 …… 市が負担する
市と地域住民の関係の初期段階では、市に一人担当者を置く必要があるだろう。

【ニューキャッスル市での意見をつかむ具体的仕組みについて2】

介護福祉のコミュニケーションには3つのレベルがある
 1.政治のレベル(議会の議員を選出する)
 2.個人レベル
 3.専門家と利用者のレベル
30万の都市に3つの初期ケアグループがある。一つにはGPが15人。ケアプランの際、エイジ・キャリアなどとのミーティングは大変重要。
パターナリズムはイギリスにもあった。以前の単語は「クライアント」で、介護等を受けても「サンキュー」しか言うことがなかった。 → まず単語、「コンシューマー(消費者)」「ユーザー」に言葉を変えた。「自分たちには権利がある」ということ。

【ニューキャッスル市での意見をつかむ具体的仕組みについて3】

MAKE CHANGE A WORK
いつも苦情を言っているものでもないだろう。
良く聴くシステムを運営する。成功するには時間がかかる。

【ニューキャッスル市の子供と福祉について】

学校によって異なるが、市民の責任を教えるということ。"Skills for People"
子供もコミュニティに参加する場をつくる。一方通行、学校だけというのではない。
地域との協同が必要。
コミュニティは高齢者のみにあらず。誰かキーパーソンが必要。

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【最後に、コミュニティケア成功のキーワードを各シンポジストから】
ロイクロフト氏: >聴くこと(リスニング)
>忍耐、しばらく実施してみる
ファース氏: >変化と変更は避けられない。その際、人を責めてはいけない。
>お互いに学び合う、全く新しいチャレンジなのだから。
ドリンクウォーター氏: >魔法の解決策はない
>現場、地域、前線。
メトキャーフ氏: >フェース・トゥ・フェースで傾聴しましょう
>小さなレベルから大きな予算のレベルまで、良く聴く
上野谷氏: >自己責任
>」分かち合い

-------------以上

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