末弘厳太郎(すえひろ いずたろう)
1888-1951年。法学者。1921-46年東大法学部教授。1947-50年中央労働委員会会長。

「役人学三則」(『改造』昭和六年八月号)

第一条 およそ役人たらんとする者は、万事につきなるべく広く浅き理解を得ることに努むべく、狭隘なる特殊の事柄に特別の興味をいだきてこれに注意を集中するがごときことなきを要す。

第二条 およそ役人たらんとする者は法規を盾にとりて形式的理屈をいう技術を修得することを要す。
・法規を盾にとって理屈をいう技術と法律学とは別物である。
・今日われわれが教えているように、まず社会があり、社会生活があっての法律である、というような考え方は役人にとって禁物である。
・現在の役人は、しばしば法規の不存在を理由として行動それ自体を拒絶する。私はそれを法治主義の誤解に由来するものとして排斥したいのである。

第三条 およそ役人たらんとする者は平素より縄張り根性の涵養に努むることを要す。


「役人の頭」(大正十一年六月下旬)

 「元来、法治国はあらかじめ作っておいた法律すなわち尺度によって万事をきりもりしようとする制度です。そうして近世の人間は公平と自由との保障を得んがために憲法によってその制度の保障されることを要求したのです。」
 「ところが人間というものはきわめてわがままかってなもので、一方には尺度を要求しながら、他方においてはその尺度が相当に伸縮する、いわば杓子定規におちいらないようなものであることを希望しておるのです。」
 「その矛盾した要求を適当に満足させているものは、すなわち「役人」である。」
 「万事をあらかじめ法律で決めておくことは事実上とうてい不可能なことであるのみならず、生き物である人間は決してかくのごときことを好まない。」
 「そこで、一方においては法律をもって大綱を決めつつ同時に他方においてはその具体的の活用をすべて「役人」に一任して、公平と自由とを保障しつつ、しかも同時にある程度に動きのとれるようにすることを考えたのが、すなわち今日の法治主義です。」


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