協同組合の歴史と原則

2000.03.10 神戸学習会
岡安 喜三郎

1.協同組合・労働者協同組合

2.ICA(国際協同組合同盟)の協同組合原則

 ICA協同組合原則の変遷

第15回大会で採択
1937年パリ
第23回大会で採択
1966年ウィーン
第31回大会で採択
1995年マンチェスター
1.加入脱退の自由、公開 1.公開 1.自発的で開かれた組合員制
2.民主的管理、一人一票 2.民主的管理、一人一票 2.組合員による民主的管理
3.利用高配当 4.剰余金の配分 3.組合員の経済的参加
4.出資金の利子制限 3.出資金の利子制限
5.政治的・宗教的中立    
6.現金取引    
7.教育促進 5.教育促進 5.教育・訓練および広報
  6.協同組合間協同 6.協同組合間協同
    4.自治と自立
    7.コミュニティへの関心

ICAの創立総会(第1回ICA大会)−−1895年8月19日ロンドン(14カ国の代表者35名出席)
  * 「利潤分配」をICAの加入条件の中に加えるべきか否か−−決着せず
  * 第2回大会「協同組合の真の原則と最善の方法との共同研究」

 ICAバーゼル大会(第10回、1921年)は協同組合企業にロッチデール開拓者の掲げた諸規則の適用を要望した。以下の規則を適用し、その事業を利用しうる人には誰でも加入を認める企業は、消費者の家計に貢献するか、小独立生産者の経営に貢献するかを問わず、協同組合と見なされるべきとした。
  @自家資本経営、出資金には配当ではなく普通の利子のみ支払う。
  A掛け売り配給の禁止。
  B販売の市価主義。
  C経営の剰余利用によってその成立に貢献した人々に帰属。
  D平等議決権の原則の適用。
  E剰余の一部分は養育の目的に充当。

 ICAウィーン大会(第13回、1930年)フランスから「現在ロッチデール原則が各国でどの様に適用されているかを調査し、必要とあればこれに定義を下すことを任務とする特別委員会」の設置を求める提案がだされ、ソ連は賛成、イギリスは反対の中で、少数差で採択、「特別委員会」が設置された。

 ICAロンドン大会(第14回、1934年)での「特別委員会」報告(骨格は1937年原則と同趣旨)に対し、消費組合のみならず、他の諸協同組合にも適応するように、再付託する確認をした。

 ICAパリ大会(第15回、1937年)で協同組合原則を採択。
  (明白に国際的かつ統一的な形で確認された)
  1〜4:あらゆる協同組合が守るべき基本原則(ICAの加入条件)。
  5〜7:成功している実践からの原則であるが、ICAの加入条件とはしない。

 ICAボーンマス大会(第22回、1963年)にソ連セントロソユーズから「協同組合運動の基本原則修正に関する動議」が提出される。西ドイツ、フランスはロッチデール原則は不滅の原則であり、いまさら修正する必要はないと反対。イギリス、スウェーデンなど多くの国の代表の賛成によって動議は採択され、「ICA委員会」の設置を決議した。

 ICAウィーン大会(第23回、1966年)にICA委員会報告がされ、勧告が採択された。従来からの原則に一部の変更がなされた。当時の全農、全漁連、日生協、協同組合経営研究所の評価では「変更は本質的なものではなく、(旧)原則中のやや本質的ではないものについて、今日の状況に適合させるための整理がされたに過ぎない」とされている。

 ICAモスクワ大会(第27回、1980年)にカナダのレイドロー博士が「西暦2000年の協同組合」と題する報告(レイドロー報告)を行った。

「歴史を振り返ってみると、成長と変化の三段階を協同組合は通ってきた。信頼性の危機、経営の危機、思想的な危機。→今世紀末へ向けて協同組合運動の展望をはっきりさせる。」

 ICAストックホルム大会(第29回、1988年)でマルコス会長、「協同組合の基本的価値」を報告。「参加」「民主主義」「誠実」「他人への配慮」

 ICA東京大会(第30回、1992年)でのベーク報告「変化世界における協同組合の価値」(ニーズに応える経済活動、参加型民主主義、人々の能力の発揚、社会的責任、国内的・国際的な協力)


<付録>モンドラゴンの協同組合原則

【モンドラゴン協同組合の実験の基本原則】

 労働人民金庫に連合する諸協同組合が結成する協同組合会議は、その責任においてモンドラゴン協同組合の実験の基本原則を定め具体化する。
 これらの基本原則は以下の点に配慮して表明されるものである。
(a)ロッチデールの「開拓者たち」により最初に定式化され、国際協同組合同盟(ICA)の諸会議で具体化された世界的な協同組合原則
(b)三〇年以上にわたって蓄積されたモンドラゴン協同組合企業の実戦経験
(c)客観的状況の進展と将来の協同組合の発展に対応しうる、上記原則の開放的で弾力的な性格

【基本原則】(要約)

1.自由加入
   組合は、本基本原則を認め、ありうべき職種に適応しうる能力を有するすべての人に開かれている
   協同組合加入においては、内部規定の基本条件の承認のみが要求される

2.民主的組織
   「一人一票制」/理事会を民主的に選出/組合員は指導諸機関に対して協力・機関の権限保有

3.労働主権
 モンドラゴン協同組合は、労働が、自然、社会、人間を変革する基本的要素と考え以下の通り行う。
(a)賃金労働者の系統的雇用をしない
(b)協同組合企業の組織においては労働に完全な主権を付与する
(c)生産された富の配分については労働が本質的な尺度である
(d)協同組合の全構成員に対し、職務の選択の機会の拡大をめざす

4.資本の手段性・従属性

5.管理への参加
 民主的性格は常に組合員に依拠し、自主管理の促進、企業管理の領域への組合員参加の促進に基づく
(a)適切な参加のための機構と方法の展開。
(b)協同組合管理の基本的事項についての情報の公開。
(c)組合員に影響を与える経済・組織・労働上の決定について、組合員および組合員代表と審議、交渉する方法を確立し実行すること。
(d)組合員を社会的、専門的に育成するための計画を体系的に実施すること。
(e)より高度の専門的責任を伴う職務を担当するための基本的方策として、内部昇進制を確立すること。

6.報酬の連帯性
   報酬は協同組合の実情に応じて十分であること/内部的・外部的連帯性をもつこと

7.協同組合間の協同
 連帯の具体的な適用として、また企業効率化の必要条件として:
  ・単位組合のグループ化(損益の共同化、組合員の移動の調整、同質の社会労働体制の実現)
  ・グループは、上部の組織、機関を設立し、民主的に運営して相互協同を促進する
  ・バスクの協同組合運動を強化するために相互協同を促進する
  ・スペイン、ヨーロッパ、世界全体の協同組合運動との協調、共同諸組織の結成、相互協同

8.社会変革
 人民と連帯して社会変革を行う決意を表明する。バスク地域を経済的、社会的に立て直し、より自由で公正で連帯性の強いバスク社会を建設するのに役立つ協同を拡大することによって、バスク地域の社会変革をめざす。
(a)純剰余金の多くを共同基金に再投資し、新しい職の創出をはかる。
(b)社会事業基金の活用で地域コミュニティの発展のための活動を助成する。
(c)協同組合システムに適合的な社会保障政策を確立する。
(d)社会的・経済的性格を有するバスクの諸団体との協同をはかる。

9.国際性
 平和、正義、発展を目的とし、「社会的経済」の分野で経済民主主義のために活動しているすべての人々と連帯することを表明する。

10.教育
(a)協同組合教育。協同組合員全体のための、とりわけ協同組合の社会的機関に選出された組合員のための、協同組合教育。
(b)専門教育。とりわけ指導機関に配置された組合員のための専門教育。
(c)一般に青年教育。将来において協同組合運動の強化と発展を担いうる青年男女協同組合人の教育。


【モンドラゴン発展の要因】(イギリスのウィーナー、オークショットによる)

(1)「指導層と経営層の質の高さ」

(2)「技術面の能力と教育の重視」

(3)「出資に基づく組合員の経営責任の強さ」

(4)「共済機関などによる相互扶助制度の整備」

(5)「労働人民金庫の特別な役割」


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