鈴木書店にて講演

1992.10.9 18:00〜19:30

御茶ノ水スクエアC-314

鈴木会長,宮川社長,小泉仕入部長,土屋第1販売部長,大谷第2販売部長,ほか係長以上の職制と大学生協担当者全員を対象に計55名

テーマ

「大学の変化・書籍の再構築」

0.自己紹介

 只今紹介いただきました大学生協連の岡安と申します.私は1973年の4月に東大生協の駒場の書籍部に入りまして,最初は教科書担当をしまして,その後人文担当,検収係を経て1974年9月店長になり,1975年9月から1年間本郷の書籍の店長をやらせていただいたわけです.

1.なぜ再構築か

 今回,皆様の前でお話しさせていただく,大学の変化,書籍事業の再構築ですが,なぜ大学生協の書籍が再構築というこを言い始めることになったのか,ということでありますけれども,大きくはここに書かれている2点であります.大学が大きく変わってきた,これからももっと大きく変わるであろう,ということが一つです.さらに,大学の変化というものは大学総体の問題でありますが,もっと具体的には生協事業そのものが変わってくる,我々が書籍事業もしくは勉学研究事業ということで提供してきたものが,「どのように使われるか」というところを見ないと,将来的な安定的な事業として成立しない.こういう二つの点から考えざるを得ない,ということに簡単に言えばなるのではないかというふうに思っております.

2.再構築の内容〜三つの重点対策

 ひとつは書籍の情報システムというものを構築しょうということです.二つ目が連帯事業の構造というものをきちんと革新し直そうということであります.三番目には版元・取次対策を革新するんだ,その三番目がちょっと去年の夏に先行しまして,一時豪速球が出たかということもありますけれども,この三つがそもそもの現在我々が考えている書籍の再構築の中身でございます.

■書籍情報システムの構築

 書籍情報システムの構築とは何かということであります.書籍というのは情報が満載されている商品だと,こういうふうによく言われまして,私もず−と書籍をやっている時からそう思いまして,それに合わせたような提供方法とかいろんなことを考えましたが,ひとつの物質的な物という見方をしますと,およそまだそういう点での情報システムという範囲での物流になり切ってない,ということであります.それは生協の書籍部の活動の仕方が,ある点では悪いのかも知れませんし,書籍の業界がそうなのかも知れません.

 そういう点では,必要な生協自身のスタンスと同時に,そういうことに共感する取次・出版社と協力してまとめていかなければならない.情報システムに全体として賛意を表明してのってくれるようなところで集まって次の仕組みをつくると,そういうことを基盤にする中身にしたい.

■連帯事業の構造の革新

 70年代の中頃までは本というのは売れたものなんですよね.有ればなんとか売れたということです.したがってそれの最大のセ−ルスプロモ−ションは棚をどのようにきちんと整理するかということが一番大きな関心事だったわけですね.目録も置いておけばどんどんさばけるという時代が70年代の中頃までです.それ以降徐々に徐々に少々の変化をとげてきた.学生が本をあまり読まなくなったんじゃないかという提起もありました.目録の中から自分で探して本を読むと,こういうスタイルの学生というのが圧倒的に少なくなってきたわけであります.

 したがいまして,本を売るという行為の中には本を読むという動機づけをしなければいけない,というふうに生協の活動の仕方も変わってきております.所謂読書推進,書評とかを考えてみたり,またテ−マに合わせて品揃えしてそのテ−マをきちんとテ−マ解題とかしながら,テ−マ性を持った店作りをしょうか,ということに70年代の終わり頃から80年代がずっと模索したのはそういう中身だと思うんですね.

 同時に,生協自身のマネジメント,オペレ−ションというレベルはどういう推移をしてきたかという問題でもあります.オペレ−ションレベルとか作業の改善というものを意識的にやって効果があったのは70年代までです.たとえば大学生協連のマネジメント教本というのを出した時期もあります('80年代).ここの役員の方にも読まれた方もいらっしゃると思いますが,あれ全部やればかなりいいお店が出来るんです.しかし,なかなか出来ない,なぜ出来ないのか?

 提起は結構なわけでありますが,さっき言ったように「本は置けば売れるという時代のオペレ−ション改善」と,「置いてもなかなか売れない時期のオペレ−ションの改善」とは素直に言って違いますよね.いろんなことが増えてくるわけです.ス−パ−店長でなければ出来ないようなマネジメントの提起が結局される.でも本当はやらなくちゃいけないと思うから,皆は「そうだ」と.決めた時にはそうですけれども,いざやろうとすると時間が足らない,こういうジレンマに陥ってきたというのが,80年代の大学生協の書籍の流れだったのではないかということであります.

 今までだったらそれぞれの生協のお店が独立して,こういうふうにやったらいいんじゃないか,こういうことをやったらいいんじゃないかというのを,提案し,また交流することで進めてきましたが,それだけですと,どんどんどんどん時間がかかる,どんどんどんどん人もかかる,それだけやってればどんどん採算は悪くなる.したがいまして経営するという立場からすれば,それぞれの生協にあるいろいろな経営資産を,もう一度連帯との関係で見直して,経営資産の集中およびその再配分ということについて真剣に考えていく必要があるんじゃないか,というのが二番目の考え方のところで出されているところであるます.

 とりわけ情報という問題が大きいんで,上の情報システムの構築というところの関係でもあると思うのですが,そういうことで書籍の中身を変えていこうじゃないかということです.

■版元・取次対策の革新

同時に,三番目に生協の中だけを(先程言いましたように)変えても,それはおのずとその範囲は決まっているということになりますので,版元・取次対策の革新ということについて,きちんと大学生協として政策と姿勢を持とうということです.版元との関係の中身,もっともっと先程パ−トナ−シップとかパ−トナ−とかそういう言葉を使いましたが,もっともっとパ−トナ−という問題の組み立て方,先程の専門書ひとつの物流という問題を考えた場合に,どういう改善を必要とするのか,どういうことを大学社会に貢献するような書籍事業として組み立てられるのか,というところについてはさらに.......

(この間約1分不明です:テープ交換)

3.鈴木書店に期待すること

 これは大学生協連の専務理事の責任というか,やっているかぎりにおいて,ここで言って,「まだ何か思っているのがあるんじゃないか?」ということはありませんので,はっきりと明言しておきます,私自身にとっては.実は東販を切って日販に全部移行しながらシステムを構築するという時に,「ところで,鈴木さんどうするのだ?」と「鈴木書店をどうするの?切るのか,つなげるのか?」こういう話をすぐ質問されました.多分そういう質問は来ると思っていました.これは実は,あまり主要な問題ではないというふうに思っています.

 主要な問題というのは,上に言ったような再構築というものについて,一緒にやるかやらないかということだけが問題であって,どこを切るか切らないかということはあまり大きな問題ではないというふうに考えたほうがすっきりすると考えております.

■鈴木書店の印象→エ−ジェント連合

  鈴木書店さんというのはどういう印象なんだろうかということであります.漫談調になってしまいますが,私も自己紹介の時にありましたように,書籍部をやってまして,当時は斎藤さんという担当者がですねずっと駒場の方を回っていまして,一時期は労組の委員長をやっていたようでありますけれども,そのころはちょうど私も労組の委員とか労組の執行委員長をやっていましたので,まあ「労働組合というのはいいなあ」とか,「出版労連というのは,給料高いんだってねえ」「うむ,生協よりは高いかも知れない」というような話を結構わいわいしながら,「ところでこの本を早く何とかしてくれない?」とか「この返品うまく取ってくれないかなあ」とかの話をしながらやりまして,比較的いい担当者に恵まれることによって,私の書籍の知識というものがかなり増えたというふうに思っております.

 そういう点では,日販さんにもいい担当者が当時高岡さんという人がいまして,一緒に車で運んでくる人(名前を今失念して申し訳ありませんが)おじさん,そのおじさんが運転しながら英会話を聴きながら,英会話を覚えてしまったという,そういう人がいるということで,私も大学を終わったからもう勉強はいいんだろうと思っていたのが,いやそういうわけでもない,勉強というのは何歳になってもやるもんだと,そういう人柄を見ながら育ったというのは非常にいい機会だったというふうに思っております.

 また,店長時代とか,その前の担当者の時代から鈴木書店さんの店売在庫のところなんかも結構見に来たりして,抜き取りなんていうものをやってそれを店に置く.まあ当たり外れが結構激しくて,自分の思い入れで抜き取った本はそんなに当たらないもので,売れるというのは売れる客観的な条件がどこかにあるかもきちんと見ないといけないんだなということをそこで覚えたものです.学生なんかも好きですからついでに引っ張てきて「お前がもしも店に置いて,こういう本だったら売れるんじゃないかと思う本を,少々抜き取ってみなさいよ,仕入れてあげるから」ということで抜き取ってきて駒場の書籍部に置くこともできましたね.その時に抜き取ってきた学生さんというのは,今東大の生協で専務理事をしていますけれどもね.

 そういうことのいろんな中身を見てみますと,担当者の方というのがすごく印象に残る取次さんという感じがしています.先程言いました,東販を切って日販にする時に「鈴木書店はどうするんだ?」という時に関しては,鈴木書店と取引は基本的にはずっと続けていくんだと思っている店長さんというのは多いんですね,東京の事業連合の中では,これはやっぱりすごい強みだと思うんですね,現状では.問題は未来に対して強みがあるかということだけをきちんと考えておいて欲しいというふうに思うだけです.

 そういう点でいろんな形で担当者の方が一生懸命ということで「エ−ジェント連合」というふうに見えるのではないか.だいたい,ちょっとした無理難題は担当の方に頼むと何とか解決しちゃうということがあるもんですから,結構そういう印象が強い中身であります.まあそれが鈴木書店さんの経営にどういうふうにプラスになるかマイナスになるか,私はよく分かりませんが,いずれにしろ生協のお店の側から見ればすごく頼りになる,違いが見える,また小回りもきく,品物も早めに入ってくるとかがあります.ひとりひとりのつながりはあるんだけれど,それが生協と鈴木書店さんという,所謂法人である会社と生協という法人という組織的な付き合いというのはどうなってきてるのかな,というところについてはちょっと私も見えないところがあります.見えないということは私が少なくとも,そういう付き合いの場にはいないということを言っているに過ぎないのですけれども,実は本当にないのかもしれません.

■鈴木書店は業態としては「なに屋」さん?

 もうひとつは,業態としては「なに屋」さんなのか?ということです.私がよく聞きますのは人文科学専門店という言葉ですが,率直に思いますと人文科学専門店というのは,生協にとってそんなに魅力のある取次なんだろうか,ということになってくるんだろうと思うんです.私のほうからは実は鈴木書店さんというのは特定版元専門店というふうにずっと思っていたんですね,これは駒場の時代から本郷の時代から,決して人文科学,社会科学の専門店だというのは思って見たことはまずありません.というのは東大生協の特殊性かも知れませんが,東大出版会は鈴木書店さんなわけですから,東大出版会とか岩波の本は自然科学の本が多い,いずれにしろ我々生協にとっての魅力というのは,その版元に強いか強くないかというのが結構大きな魅力でありますので,そのことについては一応念を押しておきます.

■80年代までと90年代以降の決定的違い

 先程大学生協側のところの70年代の中盤までのことと,70年代後半から80年代のことを見まして,90年代以降大学自身がどう変わるかということをお話しましたけれども,「もの」を売るという限界ということについて,我々は実はかなりもう切羽詰まってきている部分があります.今必要なのは「もの」ではなくて,「こと」というのが非常に大切になって,その「こと」をきちんとやると「もの」のところでも剰余がきちんと取れるという,この関係に今はもう変わってきてしまったわけです.

 そういうことでいきますと,たとえば本というか財というところだけの提供というのは,おのずといろんな形で限界が出てくるんじゃないか.たとえば教科書というのもそうですよね,教科書とかというところだけをめざして,教科書自身をどれだけ拡大するかということを考えてもおのずと限界があるんだろうと思うんです.授業それ自身が変わってきたり,教科書を使わないでコンピュ−タとビデオとその他のCDとかですね,そういうのを使って授業をもっとマルチメディアで多角的にしょうという時期に教科書だけというところだけ見ても,ちょっと合わないですね大学の授業とは.そういうふうに大きく変化してきているということがあるのでどうなっていくのだろうかということであります.

 実は大学生協というもの店舗という意味では,ここに「書籍の執事」で留まるのか,「カリキュラム・コンサルタント」をめざすのか,こんなことが突然書いてありますが,これは別に大学生協で今問題提起をしているわけではありません.さっき言ったようにカリキュラムが自由になるとどういう授業をしたらいいのかってこともあって,先生方は悩むわけですから,そこにきちんと生活協同組合というネットワ−クの力で,先生方の授業に対する取り組みに対して生協をパ−トナ−として見てくれるようになってくる.そういうこととして問題提起をしているということですので,目標が高くもてやっていきたいと考えている部分であります.

■版元と生協の架け橋になれるか

 そういうのと対応する形ということで,版元と生協の架け橋になれるかということでございます.版元は版元でさまざまな大学の変化とか,そういうものを考えながら専門書版元はそうですし,それ以外の版元もさまざまな本を企画し出版するわけですよね.

 一般的に言いましても取次さんというのはその間で架け橋でなければいけないですし,どういう形の架け橋かということになろうかと思います.そういう意味で現在検討している書籍の情報システムという問題になろうかと思うんです.実は情報システムの根本問題だろうと思うんですが,この情報システムにきちんとのる形で検討をするのか,そういう形でシステム検討に加わってもらえるのかどうなのか中身としてという問題です.これはいろんなことを考えております.たとえば先程言いました,専門書を3日で届けるシステムというのはどうするかという問題もそうです.これを今までみたいな形で生協で考えて,取次さんに交渉して,取次さんがOKかOKでないかを受けとめる,こんなやり方をしているようじゃ全体として社会的な停滞を招くだけですから,協同すれば何ができるのか,協同して何を改善するのか,こういうことを我々はまとめている訳です.

 要望してこれが出来るのか出来ないのかということのレベルでいけば,それはもうさっき言ったように個人の踏ん張りでなんとか努力してきたという経緯はあると同時に鈴木書店さんの強みでもあるわけですよね今までは.しかし,3日でやるためにどうしてくれるのか,どうするかという話になった時に,今までみたいな個人の頑張りとなんとかそういうことだけで改善出来るでしょうか.多分,要望して鈴木書店さんの中で検討して「こうしょうか」と言っても多分解決しないのだと思うんですね.解決できないから今まで解決しなかったんです.

 「そんなことを言うのは書籍を知らないヤツだ」とけんもほろろに今までは言われても,今度はそういうことをきちんと改善しなければいけない.少なくともそれが書籍を扱い専門書を流通させ大学の中で事業をやっている,そういう人達のところが真剣に考えなければならないことだろうというふうに思っております.そうことで事業機会というのがまた新たな形で発生するんだろうと思うんです.いずれにしろ,そういう方向で重要な架け橋というものをどのように作るか,システム構築ひとつ考えた場合でも,一緒に考えながら何ができるかというふうなパ−トナ−シップのとれる,パ−トナ−としてそういうことができるという取次を私達は欲しております.

 何かを要望してそのことが出来るか出来ないかというそういうレベルでの取引交渉のレベルでの取次さんというのは,今まではそうだったかも知れませんが,それだけでやってますと生協自身が危ない面も出てきますからね,これからね.生協自身も生き残るためには生協だけの努力じゃない.生協の回りにいるいろんな人達,生協から見れば出版社であるし取次さんであるし,そういう人達のところと一緒になって何が改善出来るのか,その一緒になってという人達がどれだけ増えるのか,というところをひとつきちんと見ながらこれからの事業を組み立てていきたいというふうに思っております.私の方からのお話しは以上のところで終わりにしたいと存じます.どうも永い間ご静聴いただきましてありがとうございました.


当日レジュメ

大学の変化・書籍の再構築

1992.10.9/6:00-7:30PM 大学生協連 岡安

(自己紹介)

1973.4〜 東大生協駒場書籍部
教科書担当,人文担当,検収係,そして店長
1975.9〜 同生協本郷書籍部店長
1976.12〜 同生協常務理事
1979.6〜 同生協専務理事
1985.12〜 現 職

1. なぜ再構築か

a) 大学の変化
b) 授業の変化

2. 再構築の内容〜3つの重点対策

a) 書籍情報システムの構築
b) 連帯事業の構造の革新
c) 版元・取次対策の革新

3. 鈴木書店に期待すること

鈴木書店の印象→エージェント連合
往年の店長の取次訪問
鈴木書店は業態として「なに屋」さん?
人文科学専門店なのか特定版元専門店なのか
80年代までと90年代以降の決定的違い
「○○財」の販売の限界→○○を売る
店舗にとっては,
「書籍の執事」で留まるのか,「カリキュラム・コンサルタント」をめざすのか

版元と生協の架け橋になれるか

*現在,生協で検討している書籍情報システムの根本問題――架け橋とは
*個人のガンバリズムだけで未来を担えるか――会社のビジョンが不鮮明
*何が,鈴木書店の強みか


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