「労協法」国際フォーラムでの発言(抄)


1999.9.13 岡安 喜三郎


 私は大学生協連の岡安と申します。大学生協とは地域にある生協と同じ法律によって設立されていますが、事業内容は、教科書・本屋さん、文具、食堂運営などです。

大学生協と労働者協同組合

 この大学生協と労働者協同組合とは何で結びつくのか?、私が何故この「国際フォーラム」にいるのか?、これ先ずを簡単に説明しなければなりません。直接にはICA大会の開催地ケベックで菅野さんから、依頼があったわけですが、依頼があったからという理由だけではありません。
 実はもう数年前になりますが、東京近辺の国立大学で労協と大学生協との共催で学生向けの「就職セミナー」を開きました。当時、大学生協も「就職支援事業」が話題となっていたのですが、就社支援では生協らしくない、仕事とは何かを問いながら主体的に就職を考える機会を提供しても良いのではないかとの思いが私とかの周りにありました。
 その時に労協の方と話があり、学生と仕事興しのテーマでセミナーを開催することになったわけです。結果は残念ながら、「二回目をやろう」という盛り上がりには至らなかったのですが、当時の問題意識は今でも必要な問題意識だと思っています。

ICAケベック大会に参加して

 先ほど菅野さんからケベックで行われたICA大会の報告がありましたが、それに関して私もいくつか述べてみたいと思います。
 実は1988年以降、ICA大会と並行して「青年セミナー」が開催されてきました。東京大会の時は大学生協連がホスト団体になって開催し、それがマンチェスターに引き継がれ、今回のケベック大会でも開催されたわけです。
 大会中に、3つのビジネス・フォーラムが分科会形式で開かれ、その中の「規制緩和・民営化のなかでの協同組合」の分科会に私も参加したのですが、「青年フォーラム」にアジアから参加した青年も、ここに参加していました。言うまでもなく、そこでは新しい形態の協同組合へのチャレンジが大きな話題です。こういうチャレンジに青年が入ってくる可能性はかなり高いのではないかと感じています。
 この「国際フォーラム」で多くの人から語られたチャレンジと、学生・青年をもっと結びつけることは可能だと思っています。何よりも学生自身が感心をもっていると言えます。すでに活動もしています。
 活動している学生のなかには、行政の縦割りが、コミュニティの活性化を遅らせているのでなはないか、協同組合も「縦割り」のまま、もっと横の連携をすれば、いろんなことができるのではないかと発想し、ネットワークのセンターを作って活動しているグループもあります。
 さらに地域社会と協同組合の組み立てをする場合、高齢者協同組合の流れと共に、そこに青年も入り込める仕組みが必要だと思います。そこで一つのプランとして、生協や農協、さまざまな協同組合で活動している青年が集まって、青年自身が自ら協同やその未来を語ることのできる場、「協同組合青年フォーラム」の必要性を感じています。
 
アジアで見た多様な協同組合

 私はこの十数年、全国大学生協連の役員として、アジアの協同組合との連携を模索し推進してきました。アジアにもワーカーズ・コープがあります。何年か前、フィリピン・マニラ郊外で、日本でいう福祉の「共同作業所」がコープで運営されていたのを見学しました。インドネシアにもワーカーズ・コープがあることが分かりましたが、詳しくは私も知りません。
 今年の7月、大学生協設立セミナーに講師としてベトナムを訪れた際、古都フエにある地域生協を見学しました。4400人ほどの組合員の生協でしたが、そこでは、障害をもつ子供たちを対象に職業訓練センターを運営していました。フエでは、あのベトナム戦争の影響で障害をもつ子供が多いのですが、南部や北部と違って相対的に貧困な地域です。ハノイには政府の職業訓練学校があるようなのですが、フエにはないので、ミシンを導入して職業訓練センターの運営に着手したそうです。
 訓練は1ヶ月単位、訓練中に作った衣料は商品ではないのですが、ある特定の場所に持っていって値段を付けてもらうそうです。その内容をフィードバックする形で訓練が行われまています。

「生産者」や「利用者」だけではない協同組合の必要性

 さきほど、福祉活動に関して、受ける側が主体的になる、自立する過程を支援する問題等での組織のあり方が論議されました。そういう点では生協という組織は一定の効果性・優位性を持った組織だと思っていますが、生協という利用者型の協同形態だけで解決できるとは思えません。福祉等には働く側の協同(働く人の協同、働く人と利用者の協同)も大変重要になります。
 協同組合を割り切ってタイプに分けてみますと、生産者コープと非生産者コープに分かれると思います。生産者コープには、農業従事者がつくるコープ、漁業、森林、中小企業者のコープ等があり、その生産事業による収入確保・拡大をめざすコープです。非生産者コープの典型的な例は利用者型で、生協や労金などがありますが、それは組合員やその家族が別の場面で収入があることを前提にしたコープです。非生産者のコープの中には利用者型でない提供型のものもあってしかるべきだと思います。
 現在、日本にはそういう法律がありません。労働者協同組合、労協運動の法制化は、いろんな地域で、いま必要と思われることを実際にやることのできる協同組合を作りあげるのに必要なことだと思います。
 協同組合はコミュニティの問題を解決するために活動する、このことの重要性を、ICA第7原則「地域社会への関心」は謳っています。それは単にある別の場面での収入を前提にした「生活の豊かさ」(換言すれば消費者レベルでの)だけの話ではないことは明らかです。それは多様な協同組合制度の保証が必要と言えます。



「協同の発見」(協同総合研究所所報1999.10発行)

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