「社会的企業ノート」(2)

地域社会の普遍的利益を追求する協同組合

2003年9月イタリア社会的協同組合研修報告

協同総研 岡安喜三郎

 協同組合は経済団体としての機能や価値が言及されるが、本来それは、人と人とのつながりの営みを通じてのことであり、協同組合に関わるすべての人、組合員資格のある人たちだけではなく、取引や利用、労働等で関わる人たちすべてを主体にして運営する組織・団体であることが本質的である。これが他の法人形態・組織形態と大きく異なるところである。
 この、関わる人すべてを主体にする本質を持つ協同組合が、とくにそれを徹底して体現させる協同労働の協同組合が、地域社会の普遍的利益、公共的利益を担う事業に参加することは、21世紀の元気な地域社会を創造する上で決定的であり、この上なく地域の可能性を広げることになる。
 ICAの協同組合原則に則りながら、「組合員の共通の利益の追求」という伝統的な協同組合の共益的性格から抜けだし、直接的に「地域社会の普遍的利益を追求」(国法381/1991第1条)するとしたイタリアの社会的協同組合は、法制定当時と比較し大きな陣営となって活動している。これらは今日本で歩みだしている「市民主体の新しい公共事業」に何を示唆しているのか。

[歉 研修概要

1.訪問期間、参加者等

 2003年9月15日から26日まで、「イタリアの社会的協同組合」研修のため、イタリア中部ラツィオ州ローマ、北部ロンバルディア州ミラノ・パビオの各都市を廻った。イタリアで社会的協同組合の法律(L.381/91)ができて十年以上が過ぎ、社会的協同組合が大きく広がっている、その実態調査が目的であるが、私にとっては初めての社会的協同組合現地訪問である。参加者は7人で、内、実際のアポ取り・引率・通訳をしてくださった田中夏子さん(都留文科大学)、鈴木勉さん(仏教大学)、高成田健さん(労協センター事業団)と私の4人がイタリア全行程の参加、堀内光子さん(ILO駐日代表)、佐藤誠さん(立命館大学)、石塚秀夫さん(都留文科大学)の3人はローマのみの参加であった。

2.研修訪問地

 今回の研修で訪問したところは以下の通りである。

(1) カーポダルコ(Capodarco)協同組合の本部。アッピア新街道沿いに障害者と障害を持たない者が結成した生活共同体コムニタ(comunita`)「カーポダルコ」が母体。当初は窯業であったが産業構造の変化のために現在はIT関連が主。もっともこのことが就労者数を増やす効果があった(30人→600人、20倍)。病院関係の管理部門の一角(予約と請求事務)を受託、約半数が障害者(ほとんどが身体)で400から500人は現場で働いている。この本部のビルではコールセンター(ラツィオ州立の15の病院の集中予約センター)を運営し、各病院では請求事務の仕事をしている。

(2) コイン(CO.IN)というコンソルツィオ(consorzio、シンジケート風の事業共同の連合組織。以下本文ではコンソルツィオと呼称する)の本部。CO.INは「非営利・統合の協同組合」という説明がなされる。50の会員から成り、コインの中では「6月29日」という協同組合(La Cooperativa "29 Giugno")と上記カーポダルコが、ダントツに大きい会員(2つで全就労者60%を占める)。コイン自体はレガコープ(LegaCoop)の会員。この管理部門は上記カーポダルコの管理部門と一体的に統一された運営となっている。コンソルツィオは、「人材育成、プロモーション、実際に行政から仕事を取る」(聞き取りより)。組合員の約6割は労働組合に加入していて、単協内では理事者・労働者間の軋轢もないわけでもないとのこと。

(3) プレシディオ・デラツィオ(Presidio delLazio)。コインの会員。ラツィオ州との共同プロジェクト「すべての人のためのラツィオ(Lazio per tutti)」を運営。主に障害者の旅行や公共施設・市民に開かれた施設(店舗レストランなど)へのアクセサビリティ(利用・接近可能性)を障害者の立場から調査・データベース化し、公表したり、問い合わせに応える。得た情報は客観的に扱い、ホテル等の推薦は行わない。

(4) タンデム(Tandem)協同組合。ローマ市、カーポダルコとの共同プロジェクト「すべての人のためのローマ(Roma per tutti)」を運営。上記(ラツィオ州)に先行したプロジェクト。これらのプロジェクトは「まち点検、まちづくりである」と。「白い馬(Il Cavallo Bianco)」というアソシエーション(associazione、登録非営利団体。以下アソシエーションと呼ぶ)も組織している。これらのノウハウを生かして、障害者の見方付き合い方などの社会教育事業を受託したり、ローマ大学大学院建築の修士課程の単位として、バリアフリーとは、精神文化、考え方などのコースを担当することもしている(金は企業が宣伝として出す)。

(5) ローマ県の職業訓練と職業紹介の部局(いわゆる職安)。国法(L. 68/99)「障害者の労働権に関する諸規則」によって、職業案内は障害者とその他とではどの様な違いがでたか。例えば、一人の障害者を企業に入れるとき、働き続けられる条件を整えるのがここの仕事だという。また、ある企業が障害者の採用枠を満たしていないので採用を申し込んできた際は、医者などが入った専門チームをつくり、リストに載った障害者と企業の要望のマッチングをとって紹介する。もしその紹介を企業が拒否したら処罰に移行するという。

(6) アバコ(Abaco)協同組合。コインの会員。地域の社会インフラのコンピュータ教育を通じて、アフリカからの移民や元受刑者(一般犯、左右の政治犯)等の就労を進めている。社会一般に対するコンピュータ教育(IT教育)は、EDCL(ヨーロッパ・コンピュータ操作資格)の取得用にアソシエーション("Associazione culturrale Form&Inform")で通信教育を行っている(テキストはアバコが出版・販売)。80年代半ば、当時共産党では政治だけではなく職業専門能力による貢献が討論されていた。ここの責任者であるマウロ・マンチーニさんがコンピュータに長けていたので、青年向けに1万リラ“BASIC”教育コースを共産党の事務所で行ったのが最初。9人で生産協同組合として設立。1997年に社会的協同組合の法人格取得、同時にアソシエーション設立。

(7) ソルコ・ローマ(Sol.Co ROMA)というコンソルツィオの本部。約80のA型とB型の社会的協同組合会員から成る。"Sol.Co"は「連帯と協同」という意味から取った名称。ソルコ○○という形で各地に存在する。これらはCGM系。就労促進のため、"IdeaLavolo"というコンソルツィオ(本部トリノ)を他のコンソルツィオとともに結成している。2003年2月に成立した「労働市場改革に関する法律」によって仕事の仲介が自由化されたのを期に、事業領域を拡大しようとしていた。

(8) パビア(Pavia)市の社会的協同組合。ミラノから南へ列車で約30分。コンフコープ(ConfCoop)に加入。元々は下記のCSFが最初で、カトリックのアソシエーションであった。社会的協同組合になって当初A型の範囲で事業をしていたが、生産物が10%を超えるとA型で抱えらないのでB型を「のれん分けした」とのこと。

(a)社会的協同組合「青年の家(Casa del Giovane)」。「教育サービスセンター(CSF)」を運営するA型の社会的協同組合。ここに参加するにはAsl(地域保健公社)が推薦し、ここで選択、「モチベーションの低い人はお断り」だそうだ。欧州プロジェクトEQUALを進めている。
(b)社会的協同組合「職工青年(Il Giovane Artigiano)」。いくつかの作業所と販売所を持っているB型協同組合。先生をおいて若者等に具体的収入を得させると共に、職業訓練している。
(c)コムニタ「青年の家」。上記2つの母体となっている生活共同体。これと上記2つはドン・フランコ神父を中心にした実際上の一体的運営である。

(9) 「社会的協同組合およびアソシエーションA77」という名称の組織。1970年代にミラノ南部で問題になっていた、10代の妊娠のサポートのため、アソシエーションとして女性とその子供の居住型コムニタを開いたのが出発。80年代に薬物依存分野が広がり、AIDSも手がけた。現在は薬物依存分野が主になってきている。1982年から協同組合の法人格取得、その後アソシエーションと同時並行して存在、90年代から社会的協同組合に一本化。協同組合としてはA型を選択。ソーシャル・オペレータの育成。レガコープやコンフコープに加入している社会的協同組合を含めた独自のコンソルツィオを組織している。

[] 要約レポート

 今回の研修は私にとって最初であり、もとよりたった十日間でイタリア社会的協同組合に関する生情報が的確につかめる訳でもない。しかしながら先人の調査や公表資料等によって様々に得ることができる制度情報、統計資料をもとに、各協同組合の制度活用情況、組織・営業戦略方針などの生の情報に接することができたことは、大変有意義であった。
 イタリアにおける社会的協同組合はラツィオ州の統合協同組合など先行的な法的認知を経て、1991年の国法(L. 381/91)に基づいてイタリア全土に認知された。国法(L. 381/91)第1条の定義に基づいて、A型(サービス提供型)、B型(就労確保・労働統合型)として活動していること。同法律には、社会的に不利な人達とは障害者を含めてどの様な人達かを定義しB型ではこの人達が従事者の30%以上とすべき規定(第4条)があり、また、基準額(1件20万ユーロ)までは通常の入札方式によらず官公庁はB型社会的協同組合と随意の契約(Convenzione)を結ぶことができる規定(第5条、1996年に国法L. 52/96第20条により改正)や、事業共同の連合組織(Consorzio)をつくって活動できる規定(第8条)がある。また1999年の障害者の労働権に関して規定した法律(L. 68/99)で、50名を超える雇用者のいる企業では労働者の7%は障害者でなければならない(15人から35人の企業では1人、36人から50人では2人)が規定される等々がイタリアの社会的協同組合を巡る法的基礎となる。
 「イタリアでは、国法381号による社会的協同組合の法的認知を皮切りに、同協同組合は、着実な伸びを示してきた。イタリア全土で言えば1993年から2000年の8年間で、1,479協同組合から6,952協同組合への、約5倍の伸びとなっている。タイプ別の見た場合には、A型協同組合が804から4,026協同組合、またB型の場合は、517から2,549組合への伸びとなっており、いずれも5倍の伸びを示した。A型協同組合とB型協同組合の割合も、前者が6割弱、後者が4割弱で推移しており、93年データと2000年データでは際だった違いはみられない。変化を指摘するならば、混合型の半減のみである。前述の、各協同組合の歴史的経過から見てもわかるように、A型の組織が、当事者主体の運動的な発展を見た結果B型を生み出すケースが極めて多く、AとBとの一体的な発展が、経年的な数字の上からは見てとれよう。当初はこうした経過から、一つの組織体がA型としての機能とB型としての機能を併せ持つことも想定し、「混合型」を認めたが、組織の適正規模の観点から、法人としては別々の組織体とするケースが増えてきたと考えられる。」(田中夏子氏)
 今回の訪問で私は、発展の要因調査の一つとして、社会的協同組合とその周辺領域に関心が集中した。したがってこのレポートは、社会的協同組合とその周辺に焦点を当てている。そもそものこのレポートの始まりは各社会的協同組合のリーダーからの聞き取りでありであるが、できる限り印刷物資料(訪問した際に頂いたもの)等と突き合わせ、事実と齟齬がないように務めたつもりである。

1.「公益」を担う社会的協同組合で働くということ

 社会的協同組合は、国法(L. 381/91)第1条において「人間発達や市民の社会統合において地域社会の普遍的利益を追求することとする」とあるように、他の協同組合のような「組合員の利益の追求」という共益性ではなく、「地域社会の普遍的利益の追求」という、いわば「公益」を担う協同組合として法制化されている。
 訪問した幾つかの社会的協同組合のマネージャー達(アバコ、A77など)は、公益を担う協同組合で働くことの自らの意味を確信して仕事に従事していた。直接に、「事業体としての社会的協同組合は仕事の達成感が違う(良い)」「公益を担う協同組合なので社会に関わる実感がある」(アバコのマウロ・マンチーニさん)「市民に働きかけ公共機関に働きかけ、社会を変えていくのに魅力的」「シチズンシップの創造である」(A77のマッテオ・ヴィラさん)等々の発言が聞かれた。
 障害者の旅行や移動、様々な建物・施設へのアクセサビリティ(利用可能性)の共同プロジェクトを運営しているタンデムのジョバンニ・サンソーネさんも、「このプロジェクト(みんなのためのローマ)は労働統合だけではなく、まち点検であり、まちづくりである」と胸を張った。「みんなのためのラツィオ州」も含め、これらのプロジェクトは協同組合側からの自治体への提案として始まったという。受け身の担い手ではなく、様々な提案をする積極的な「公益」の担い手でもある。
 「公益を担う」という点では、欧州連合(EU)が30億ユーロを拠出した「より多くより良い仕事のための、および誰もがその仕事にアクセスすることを拒否されないためのEU戦略」であるEQUALという名の戦略の「受け皿」として、主に障害者の雇用に取り組むソルコ・ローマ、青年の就労に取り組む「パビオ青年の家」等が積極的に取り組んでいた。

2.社会的協同組合と自治体の共同プロジェクト、国、EU

 「地域社会の普遍的利益を追求」する社会的協同組合は自治体との契約(自治体からの委託)による収入が何割かを占めていることが特徴でもある。自治体との共同プロジェクトの場合やパビア市のA型「教育センター」など、収入の百パーセントが自治体からという場合も当然ある。B型の場合(労働統合型)は国法381/91第5条によって、低額の場合官公庁がB型社会的協同組合に仕事を出すことができることを保証しているのが制度的には大きいが、すべてがこの方式よる収入というのではなく、入札で果敢に仕事を取ることもしている。「カーポダルコのような大きなところは公的資金も不要だが、小さな社会的協同組合に取っては必要」(カーポダルコ聞き取り)とのこと。カーポダルコの15の州立病院の集中コールセンターは(1件20万ユーロを超えているので)競争入札で得たとのこと。
 社会的協同組合と自治体とが組む共同プロジェクトは盛んに行われている。プロジェクトによっては一対一の場合(「すべてのためのラツィオ州」など)、ネットワーク型の場合(協同組合側も複数ならば自治体側も複数、大学も含める:EQUAL SIS328など)と多様に組まれている。社会的協同組合からすれば共同を組む自治体や大学、その他の団体を「プロジェクト・パートナー」と呼ぶ。
 先に紹介した「みんなのためのローマ」「同ラツィオ」にしろ、また欧州基金にしろ、大枠(自治体、欧州委員会などが出す基本方針)の意向に合わせ、提案を書いていく、そして金を出させる。というやり方であると話をしていた。
 自治体の競争入札のために、一時的に「社会的企業」を結成する場合もあるとこのと(A77)。

3.社会的協同組合とアソシエーション、コムニタ、ボランティア

 社会的協同組合とアソシエーションとは密接な関係である。障害者のアクセサビリティ向上のためローマ市と共同プロジェクトを組んでいる「タンデム」、IT教育を進めている「アバコ」、「パビオ青年の家」、ミラノの「社会的協同組合とアソシエーションA77」など。社会的協同組合とアソシエーションとにおける、「アソシエーションでニーズをつかむ。事業は企業や協同組合で行う」という関係は戦略として一般的であると、アバコの協同組合の責任者は言い切った。ここで言う「アソシエーション」は任意団体ではなく、登録団体であるが、事業はできない。「アソシエーションで受けて、アバコに落とす(事業を行う)」(アバコ)と言っていた。
 もっとも、元がアソシエーションで、法381/91の制定によって社会的協同組合に移行したという歴史を持つ団体も多いと思われる(パビア市の「青年の家」の教育センター、A77など)。移行したからと言って必ずしもアソシエーションの方を解散するわけでもなさそうである。
 ローマの最初の訪問地「カーポダルコ」、パビオ市の「青年の家」、ミラノの「A77」等で「コムニタ」との関連がレクチャーされ、パビオでは実際にコムニタ「青年の家」を見学した。同じ単語で「地域社会」に使うのとは違う、少人数(とは言っても百人を超すものもある)の「生活共同体」、「グループホーム」という実体を意味し、コムニタ経営が行われる。この点は田中夏子氏「イタリア社会的経済の旅(4)」(本誌「協同の發見」第91号収録)に詳しく書かれているので参照されたい。
 社会的協同組合は、この法人形態だけで活動しているのも多いのだとは思うが、どうもアソシエーションやコムニタとの関係を抜きにして、そのダイナミックな活動を把握することはできないと思われる。この点は統計上どうこうと言うより、社会的協同組合の戦略の問題として認識しておくべくかと思われる。
 ボランティアについてはローマの訪問地では特に説明もなく、また実際に参加もしていないようであったが、ロンバルディア州のパビア「青年の家」や、ミラノの「A77」ではボランティアが働いている。パビアの工房責任者は「ボランティアは協同組合の社会的使命というより神父さんを慕ってきている」と言っていたし、ミラノの「A77」では就労者35名に対しボランティア40名である。「北イタリアでのカトリック文化(ボランティア文化)が社会的協同組合を支えている」(A77の聞き取りより)。

4.コンソルツィオと単協の期待

 今回は、レガコープ系のコイン(CO.IN)、コンフコープ系のソルコ(Sol.Co)、(パビオ「青年の家」)、また独立コンソルツィオを結成しているところ(A77)を廻った。
 コインは、人材育成、プロモーション、実際に仕事を取るという3点を強調した。コインの会員であるアバコも業務上のメリットとして、「自治体の入札対策をコンソルツィオで行う(情報も、人的にも)、取ったものを単協に分配する」ことを挙げた。実態的には社会的的協同組合側の主体は、契約や基本方針においてコンソルツィオがその役割を果たし、実際の作業等々はそのコンソルツィオに加入する単協となる。
 ソルコ・ローマは、傘下協同組合を支援するために、傘下会員の事業促進、研修・教育のマネジメント、会員の生産・サービスのコーディネート、傘下会員向けサービス・センター(定款相談、会計経理援助、組織相談、財務サービス、プロジェクトの充実など)、協同組合新規事業の促進を挙げている。
 アバコの責任者は「一般的に言って、より良いコンソルツィオがあれば、移ることもあり得る」と。日本のような系統性に価値観はないようである。実際アバコは当初レガに加入していたが、小規模にはメリットがないので脱退し、今はコインということだった。収入もコンソルツィオを通じた収入が2桁のパーセンテージを占めたりする。
 ミラノのA77では、独自のコンソルツィオ"Farci Prossimo"を持っており、13の組合が参加し、その中にはコンフコープ系もレガコープ系の協同組合も入っているとのこと。
 コンソルツィオは国法(L. 381/91)第8条により会員の7割以上が社会的協同組合ならこの国法の各条文が適用される。入札や特別契約もできるし、IdeaLavoloのようにいくつかのコンソルツィオどうしで別のコンソルツィオを結成することができる。そういう意味ではコンソルツィオは必ずしも第二次組織に限定されるわけではない。
 国法(L. 381/91)第9条によって州に登録されるコンソルツィオは、各州法の規定に従い社会的協同組合の「区分C(Sezione C)」として名簿に記載される。この場合A型、B型は各々「区分A」、「区分B」とされる(ラツィオ州法(LR. 24/96)第3条2項、ロンバルディア州法(LR. 16/93)第3条第2項など)。

5.「国法(L. 381/91)に基づいた社会的協同組合制度」の普及

 今、私の手元にはロンバルディア州産業・中小企業・協同組合・旅行総局発行の「ロンバルディアの社会的協同組合レポート<第4>」(全270ページ)がある。州登録の社会的協同組合の登録数の暦年推移や業務内容、A、Bの組合数、組合員数、就業者数、社会的に不利な人々(障害者、精神病患者、薬物・アルコール依存者、労働年齢に達しながらも家庭に問題のある年少者、半自由受刑者等に分類)との関わり度合い等々が集約されているが、本文の最初には法律の説明の部分があり、国法381/91と州法16/93の解説抄が掲載されている。
 この様な、州による社会的協同組合の紹介、少なくとも登録名簿の紹介はインターネットで見る限り広く行われている。
 もちろん社会的協同組合自体も、そのパンフレットやウェブサイト・ホームページにおいて、自らが国法(L. 381/91)の定義にそった社会的協同組合であることを明らかにしている。このような普及・宣伝はコンソルツィオがその専門技術・技能、競争力に応じて旺盛に行っている。イレコープ・ロンバルディアとコンフコープ・ロンバルディアが発行した「社会的協同組合」パンフレット(全24ページ)は各種法律(国法、州法)の解説、社会的協同組合の各種組合員(労働組合員、不利な人々の労働組合員、ボランタリー組合員、非組ボランタリー、出資組合員、利用組合員、法人組合員)の説明、各種契約(Convenzioni)の法的根拠と手続き、労働参加の協同組合の紹介、ICAのレイドロー報告第3章1「協同組合の本質」からの引用も載っている。

6.社会的協同組合をめぐる経営環境について

 私たちの最後の訪問地で、社会的協同組合を巡る環境の光と陰が話題になった。大変興味のある内容なので紹介するが、この記述は北部限定であり、中部や南部のことを想定したものではない。
 「A77」責任者のマッテオ・ヴィラさんによれば、環境の陰の部分とは、この協同組合制度を選択しても経営的に不安定であり、一般よりも存続可能性が低いということにある。一般より低いかどうかは不明だが、前述したロンバルディア州発行の「社会的協同組合レポート」を見ると、1997年末には登録数が669組合(区分別A379、B272、C18)であったところ、2000年末には868組合(区分別A497、B341、C30)、2001年末には962組合(区分別A563、B361、C38)へと増加した。ここで2001年中に増加した94組合の内訳が記載されている。新規登録122組合(区分別A75、B38、C9)、登録抹消28組合(区分別A9、B18、C1)という内訳である。
 社会的協同組合を巡る光については、社会的協同組合やコムニタ経営における応援団はボランティアであり、これにはカトリックの文化が大きく、これが北において社会的協同組合が盛んになっている原因でもあると述べていた。この点は失業率の差にも現れていると思われる。2003年7月の四半期失業率はイタリア全土では8.7%程度であるが、これは南部の17.6%の影響が大きく、北では3.8%である(ISTAT労働力調査による、季節調整済)。マッテオ・ヴィラさんは、自治体も金を出すが、ボランティア労働こそが本質的に社会的協同組合やコムニタ経営の安定化に貢献していると明言した。

[。]まとめ

 確かに社会的協同組合の活動は周りの人々のボランタリー労働を引き出す何か惹きつけるものが生まれる。それはマッテオ・ヴィラさんの言うカトリック文化かも知れないが、そこには社会的協同組合運動を進める神父さんの存在が大きいし、また「地域社会の普遍的利益を追求する」という事業体に働く達成感、実感を持ったリーダー達の熱意が周りに伝わって、ある種の磁石になるのだと思われる。そして何よりも、それを支える法律の存在が社会的協同組合の活動・事業の社会性を積極的に支えている。
 その点で我々はイタリア社会的協同組合の活動やその制度から多くのことを学ぶことが出来るし、学ばなければならない。同時に労働のあり方、協同組合における労働のあり方の深まりは、協同労働が労働と労働者の尊厳を取り戻すと位置付く点で、協同労働が様々な人たちの協同の軸となり地域社会の普遍的利益の追求に位置付く点で、日本の実践と理論の到達点にも確信する必要があろう、と感じた。
 再度確認すると、事業活動を進める協同組合は、協同組合に関わるすべての人、組合員資格のある人たちだけではなく、取引や利用、労働等で関わる人たちすべてを主体にして運営する組織・団体であることが本質的である。この本質を持つ協同組合が、とくにそれを徹底して体現させる協同労働の協同組合が、法的認知を得て、地域社会の普遍的利益、公共的利益を担う事業に参加することは、21世紀の元気な地域社会を創造する上で決定的であり、この上なく地域の可能性を広げることになる。

■協同の發見2003年11月号収録


【付】訪問先協同組合のホームページ一覧

  1. Capodarco(カーポダルコ、コインの有力協同組合)
    >http://www.coinsociale.it/chi/cooperative/capodarco.php
  2. CO.IN(コイン:レガコープ系のコンソルツィオ)
    >http://www.coinsociale.it
  3. Lazio per Tutti (Presidio delLazio)(障害者のアクセサビリティ向上のためのラツィオ州との共同プロジェクト)
    >http://www.presidiolazio.it
  4. Roma per Tutti (Tandem)(障害者のアクセサビリティ向上のためのローマ市との共同プロジェクト)
    >http://www.coinsociale.it/chi/cooperative/tandem.php
  5. Dip VIII - Lavolo Formazione Professionale, Provincia di Roma(ローマ県の「職安」)
    >http://www.provincia.roma.it/index.asp
  6. Abaco(アバコ:ITの協同組合)
    >http://www.coinsociale.it/chi/cooperative/abaco.php
  7. Sol.Co Roma(ソルコ・ローマ:CGM系のコンソルツィオ)
    >http://solcoroma.net
  8. Casa del Giovanne(青年の家:青年の就労支援の協同組合。カトリック、コンフ・コープ系)
    >http://www.cdg.it
  9. Cooperativa Sociale e Associazione A77(青年の就労支援の協同組合)
    >http://www.a77web.it


RETURN