海外レポート

フィリピンのワーカーズ・コープ

2000年5月3-4日

2000.5.13 岡安 喜三郎


訪問したワーカーズ・コープの3つのタイプ

1.障害者の生活興し・仕事興しの多目的コープ
2.雇用関係から離れた、アントレ・ワーカーズ・コープ
3.大学内の「ウィークエンド」ワーカーズ・コープ


訪問目的と印象
 まさにフィリピンにもワーカーズ・コープの波が押し寄せつつあるという印象でした。以下はその訪問記です。先のドングレ教授によるインドのワーカーズ・コープの報告とを併せてみると、今までのアジアの協同組合との交流を「ICAケベック大会(1999年8月-9月)〜協同組合の第二の波」の視点で見直すことができそうです。
 

【Bigay Buhay Multipurpose Cooperative (BBMC)】
 名称:「生活づくり多目的協同組合」(仮称)
 「協同組合主義を通じて自立した生活を!」
 "Independent Living Through Cooperativism!"
 BBMCは、社会的経済の状態を向上させ、障害者の自立した生活を草の根レベルで実現するという、いわば共通の目標で結びついた障害者の協同組合で、障害者によって組織され運営されるフィリピンで最初の協同組合として1991年9月10日にCDA(協同組合開発局:大統領府直轄)に登録されました。
 フィリピンの人口動態は、総人口7,500万人の内、1割の750万人が障害者で、その内300万人が子供と青年の障害者だそうです。この比率は大変高く、「日本人は皆驚く」と、ジェネラル・マネージャーのリチャード・アルセーニョさんは言っていました。政府自身も様々な対策を立てており、一つは建物や道路を車椅子で移動できるように設計施工する法律、もう一つは障害者のリハビリテーション、自己開発および自立並びに社会統合等に関する法律で、共和国法7277号「障害者のマグナ・カルタ」が1992年に制定されました。。
 この協同組合は5つの地域(バギオ市、セブ市、カガヤン・デ・オロ、ダバオ、マニラ)に広がり、学校の椅子づくりに従事しています。1995年にこのプログラムが開始され、現在約4万の椅子を生産してきました。このプロジェクトにおいて、200人の障害を持つ労働者が直接に恩恵を受けていると報告がありました。
 同時に、1995年にはコミュニティベースの生活プロジェクトも開始し、1万のバッグを生産し販売しました。
 最近では、ミニコンピュータ・センターと称する新生活プロジェクトを立ち上げました。内容は、コンピュータのレンタル、デスクトップ・パブリッシング、画像の電子データ化、個人カード(名刺)作成、写真印刷などです。
 このプロジェクトでは、「単に障害者仲間に雇用の機会を創るということだけではなく、同時に、私たちが質の高いコンピュータ・サービスを学生や地域に提供していこうとしています」とは、先のリチャード・アルセーニョさんの言でした。

【Kaakbay Entre-Worker Cooperative (EWC)】
 名称:カークバイ起業労働者協同組合」(仮称)
 「分かち合うリーダーシップ、卓越さを超えて」
 "Shared Leadership, Beyond Excellence"
 1998年5月8日設立、今年で2周年を迎える(訪問時5月4日)。
 事業内容はファイリング・システム(文具)の生産、販売です。
 "KOMSTACK"という会社に決別して15人で開始しました。現在40人。前の会社はファミリー支配が強いので勤めを辞めた、ということです。
 数ある事業形態の内なぜCO-OPを選択したのかについて、組合長のシエロ・ブエノ女史は以下のように言っていました。
 『CO-OPで働いたことはなかったが、シェル石油生協などの協同組合は知っていた。CDA(協同組合開発局)にICA原則等を聞きに行った。民間企業とは違う非営利団体であること、立ち上げの資本が少なくて済む(会社は1千万ペソ必要、手持ちは百万ペソだった)こと、被雇用者(employee)ではない仕事であるということ等がCO-OP形態を選んだ理由である。』
 『フィリピンのCO-OP CODE(協同組合法。80年代後半に成立、協同組合の総合的発展を期して制定、この法律と同時に制定された法律で大統領府直轄のCDAが設置された:筆者注)も読んだ。自らが経営者ということになるのでマネジメント、マーケティングも勉強した。』
 実際の出資金や報酬についても聞きました。
 ・発足当時 メンバー       15人
       アソシエートメンバー 10人(出資のみの組合員)
 ・最初のミニマム出資金(minimum share)-- P5,000.--
   この間週50ペソの増資を進めて今は25,000ペソが最小の出資金
   出資利子は年15%。
 ・賃金:法律上の最低賃金は1日170ペソと定められているが、
  ここの最低賃金は1日(120ペソ+ランチ)にしている(CDAのお墨付き)
  賃金体系は、スキルの持ち主  200ペソ/日
        トレーニー・事務 120ペソ/日
 ・事務所、工場の家賃は月47,000ペソ
 ・第1期決算では、207,800ペソの事業剰余を出した。

【UP Multi-Skilled Workers Service Cooperative】
 名称:「フィリピン大学多技能労働者サービス協同組合」(仮訳)

 1998年3月9日CDAに登録。(UPはフィリピン大学の略称)
 背景:
 1997年当時、この地域においては、働きたくとも仕事のない住民に対し仕事の創造の先頭に立つ協同組合の組織化が求められていました。また、当該地域には学校を出て就業機会を探している多くの青年がいました。
 この地域では、これらの人々への援助を広げる役割を実現するために、適切な協同組合教育を組織し、特別な仕事の経験のあるなしに関係なく76人の住民が2日間の協同組合セミナーに出席したそうです。こうして、この協同組合を設立しました。
 設立当初の組合員は36人で、現在約100人となっています。
 事業収入の内容は、車両修理、エンジンのオーバーホール、バイクのエンジン修理、溶接、タイヤ再生、バッテリーやラジエーターなど周辺部品の修理、塗装、野菜・園芸など。
 顧客は、職員の家庭、学生、大学(営繕関連)です。仕事を頼む人は、このコープに電話等で連絡し、コープはそれを技能(スキル)に応じて組合員に紹介します。
 お客さんは料金をコープに支払って、コープは10%の手数料を差し引いて組合員に渡します。この手数料がこのコープの事務所運営費になります。
 組合員は大学の職員や民間の従業員が多数で、平日は職業を持って仕事をしています。土曜や日曜にに、このコープで働くことになります(故に我々が名付けたのが「ウィークエンド・コープ)。もちろん、フルタイムの組合員もいます。学生寮のランドリー関係、大学の配管工事類に従事している組合員がそうです。
 組合員の平均年齢は38歳。最年少は21歳、最高齢は60歳とのこと。
 なお、フィリピン大学内には、さまざまな協同組合の話し合いの場「協同組合カウンシル」が設けられています。消費者協同組合(教職員)、信用協同組合、学生協同組合、ワーカーズコープがメンバーとなっていて、大学コミュニティの問題を話し合っています。


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