海外レポート

ICA大会開会式における会長挨拶

ビジョン「ICA 2005」(抄)


ICA大会開会式における会長挨拶

会長:ロベルトロドリゲス博士/ブラジル
1999年8月30日(月) カナダ・ケベック市


(現地や政府に対する御礼の前置きは訳を略)

 協同組合の友人のみなさん。この大会は、世界全体にとっても、協同組合運動にとっても、極めて重要な時期に開催されています。
 グローバル経済および市場の自由化は、協力で成長する競争勢力を生み出し、効率と専門化、コスト削減、品質、技術、生産性などの、終わりなき戦いを生み出しています。
 世界のあらゆる地域で、あらゆるタイプの協同組合が、こうした展開からの影響が避けがたいものになっています。資本形成、借入、組合員の忠誠、社会の再組織、経営の再組織、人的資源への投資――すべてがこの第3次世界大戦、市場にための戦争の影響下にあります。この戦争は、世界中の協同組合運動に対して根本的な問題を引き起こしています。
 私が思うに、我々は、ビジョンに富んだ新しい世代とカリスマ的なリーダーを必要としています。協同組合の指導者として選ばれようとする人たちは、達成したいと思う明確な政策と政綱(公約)を持っていなければなりません。組合員の願いの良き理解者だけでは不十分なのです。明日の指導者は、組合員を彼らの未来に向かってリードしなければなりません。具体的な政綱(公約)によって選出された以上は、それを実現する自由と義務を持たなければならないのです。
 我々はまた、4年前にマンチェスターで承認された協同組合のアイデンティティに関する声明に基づいた法律を必要としています。このことから、各国の法律問題に、より密接に関わる指導者が求められているのです。
 世界を見渡せば、協同組合と政府との合意と提携の成功事例が見られます。これらは大きなインパクトを持つ可能性があります。
 協同組合は、様々な面で変化しています。実のところ変化しなければなりません。合同、合併、再構築、コスト削減、合弁事業、戦略的同盟――これらは、協同組合が新しい競争勢力に対応する方法です。
 ICA自身も変わりつつあります。我々の組織見直しの結果は、9月1日(水)の総会に提出されます(「ICA 2005」のこと:訳者注)。理事会は、すでにこの問題をここケベック市で討議してきました。そしてこの新しい計画をどのように実施するのかの事務局長提案を受け取りました。ICAの各会員はこれから先、多くの挑戦課題を取り扱うことになりますが、理事会は、ICAがそのような会員に役立つ様になるためには、ICAが革新され、これら新しい戦略を実行しなければならないと確信しています。
 ほとんどの協同組合運動において、現在巨大な変化が起きていることを我々は気づいていると思います。この協同組合発展の第二の波の中で、我々は川の両岸の間を航行していることに気づきました。一方の岸には市場があり、財務的に成功する協同組合を必要とし、対岸では(組合員であるか否かを問わず)人々の幸福に対する関心が存在しています。こうした未来をのぞき込んだとき、我々は、経済と社会という協同組合の永久の二分法(物事を対立的な概念に二分する論法)を再認識することになります。これは我々の挑戦課題ですが、強みでもあります。我々の恐怖であると共に、魔法の様な(不思議で魅力のある)アイデンティティでもあります。
 協同組合が特に直面しているこの過程において、一つの論点が存在します。それは成長の必要性ですが、多くの協同組合にとっては、合同と合併によって初めてこれを達成できることになるでしょう。
 集中の課題は、グローバル化の主要な当然の構成要素です。これらは同じゆりかごから生まれたものであり、一方が他方の結果です。あらゆる経済部門において、企業は自らを限度も境界もない経済的巨人に転換しています。銀行からスーパーマーケットまで、保険会社からコンサルタント会社まで、病院から学校まで、メッセージは同じです。集中、集中、集中なのです。
 これは波です、私の考えでは、止めることのできない波です。大波が打ち寄せるとき、みんなができる唯一のことは、その波に乗ること、その頂上に留まることを試みることだけです。協同組合には、競争し生き残るために同じ道路をたどるしか他に選択はありません。幸いにも、多くはまさにこれをしており、しかも、大変成功した結果になっています。
 集中が今日の経済モデルの一方であるならば、他方は排除(exclusion)です。一方における更なる集中は、他方における更なる排除を引き起こしています。大波は常にその後に死を残します。最悪の帰結は失業であります。しかし、これだけではありません。給与の改善も生活の質の改善にも希望がなければ、映画にもサッカーの試合にも行けません、友達と楽しい時間を過ごすために外出することもできません、最新のCDや雑誌も買えません、そして子供を良い学校に行かせることもできないのです。
 この種の排除は社会不安を深刻にします。この種の排除は問題を更に更に大きくします。麻薬取引であろうが、テロリズムやゲリラ戦争であろうが、犯罪であろうがです。
 何よりも排除は民主主義の大敵です。排除は、民主主義の政府に対して明らかな直接的脅威となり得ます。失業者の大軍は既に、今述べたような犯罪と暴力の集団に加わりつつあります。民主主義の各政府は、それぞれ投資を減らすことによって自らの危険を増大させているのです。
 排除と集中はお互いに切り離すことができません。しかしグローバル化のゆりかごから育った集中とは違って、もし政府や社会が対応しなかったならば、排除はグローバル化の死を引き起こしかねません。
 そこに、協同組合発展の第二の波が、民主主義、そして結果として平和を守るという、素晴らしい機会を協同組合にもたらす理由が存在します。
 第1に、協同組合における集中は、排除の結果をもたらしません。逆に、巨大な国際市場にアクセスを求め、同時に、地域の市場をオープンに保つ過程ですべての人を包括します。第2に、協同組合は他のセクターから排除された人々に対して解決策を提供します。
 世界中を見渡せば、大学を出た若者が職を探すために、似通った専門家どうしがつくった協同組合に参加する事例が見られます。民営化のおかげで仕事を失った政府の役人が、かつての雇用者と新しい雇用者双方のために働くサービス協同組合を創立しています。
 協同組合は包括的(inclusive)な組織であり、排除(exclusive)の組織ではありません。もちろん、イメージを守るために、協同組合が悪い組合員、悪いリーダー、悪い役員を除去せざるを得ないことは事実です。しかし、これは排除ではありません、もみ殻から小麦を分離する様なものなのです。
 これらすべてのことから、協同組合は、民主主義を守る際に良き政府の理想の同盟者となることができます。
 同盟者として、協同組合は、特別な恩恵なく他の経済セクターと同等に、温情主義ではなく友愛によって、過去の出来事に引きずられた偏見ではなく将来なし得ることへのオープン・マインドによって、意見を聴かれ、処遇されるべきです。
 これが協同組合に対する新しい役割、すなわち社会的なものと経済的なものとを超越し、我々の最も尊重すべき柱である民主主義を守るという役割となるでしょう。このような問題意識だからこそ、ICAは我々の子供や孫の世界をより良いものにしようとしているのです。
 そして、このような問題意識で、既に私は会員の検討に付すべく、声明を提出するつもりでいます。この声明は、世界の最も豊かな国の指導者たちに、G-8に、OECDに、そして国連のすべての加盟国に送られます。内容は、警告と提案から成っています。
 警告は、排除が国を滅ぼすという内容です。そして提案は、すべてのタイプの協同組合、社会的関心を持った経済組織が、排除を一掃する闘いにおいて、(政府の)同盟者になることができるという内容です。
 私は、みなさんの支持を期待し、この方法で速やかに、協同組合を世界の善良で真剣な政府の協議事項にしっかりと位置づけことができると期待しています。
 結論的に申しますと、グローバル化、自由化、競争、集中という大波は現実であり、止められません。協同組合としての我々の挑戦課題は、我々自身の協同組合発展の「第二の波」をそれ自身として、大波に成長させることです。すなわち、進歩、包括、発展、公正の勢力――過去150年間のニーズを満たしたように、次の千年期のニーズを満たすであろう内容――として成長させることです。



(次ページに「ICA 2005」)

ビジョン「ICA 2005」(抄)

【ICAミッション】<以前に確認済み>

「ICA(国際協同組合同盟)は、他に従属しない非政府組織であり、世界中の協同組合を統一し、代表し、それら(の目的)にかなう連合体である。」

【ビジョン】<今回、ケベックで確認>

 「2005年までに、ICAは会員と協力して、以下のような組織になっている。すなわち、

1. 協同組合の価値とアイデンティティを宣伝し浸透させるとともに、協同組合が攻撃を受けているときには、効果的なコミュニケーション政策を通じて、市場において、影響力のある公共政策によって、また協同組合の特色を実際に示すことによって、協同組合を保護することを助ける組織、
2. 協同組合がすべての国で効率的な事業体として発展することすることを支援し、促進するとともに、特に発展途上国や過度期の国の協同組合のニーズ、経済・社会活動の新しい領域での協同組合の発展に注目する組織、
3. ICAの各セクターの組織が各メンバーに有益な事業・サービスをするよう、また連帯の原則を尊重しながらセクター感の相互互恵的な協力を増進するよう、援助、支援する組織、
4. 本部と密接に、また援助を受けて仕事し、各地域のICA会員の対するお仕着せでないサービスを提供する活動の中心となる効果的な地域事務局(Regional Offices)を整備し、維持する組織、
5. グローバルな政策を決定し、ICAファミリー全体に戦略的指針を提供する理事会によって導かれる組織、
6. ICAの協同組合アイデンティティの声明を承認した、すべての主要な協同組合運動とセクターを会員にして代表する組織、
7. 「学ぶ組織」として、最良の実践、革新的活動、協同組合発展の新しい形態等についての啓発と情報の交流を促進し、支援する組織、
8. 世界の協同組合のための、またそれについての、情報と専門的技術・知識のセンターとなる組織、
9. 主要なグローバルな問題に影響を与えることによって、またICA会員の重要領域における国際エージェンシーとして、市民社会の中で指導的な役割を果たす組織、
10. その目標を達成するに足る資源を持っている組織。


【アクションプラン】
 (上記ビジョン毎に、数項目のアクションプランが記述されている。略)

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