(1999.09.03→09.06)

米カレッジストア訪問記

1999.10.02 岡安喜三郎
栗木 敏文


 今年9月初旬、カナダ・ケベック市で開かれたICA大会/総会後、アメリカ東北部のカレッジストアと大学生協を訪問してきました。訪問地は、米国ニューヨーク州イサカ・コーネル大学コープ・ストア、コネチカット州ストア・コネチカット大学キャンパスストア、マサッチュセッツ州ケンブリッジ・ハーバード・コープです。
 今回出張目的は:

1.カレッジ・ストアのビジネストレンド調査
2.米国コーネル大学キャンパスストア、コネチカット大学生協訪問・インタビュー
3.USAS(スエットショップ<搾取労働>に反対する学生連合)の動向
4.その他です。

0. 訪問の背景/米国カレッジ・ストアの経営の変貌

 現在、米国カレッジストア業界で「トレンド」とは、店舗の経営を丸ごと業者(いわゆるチェーンストア)に任せ上がりをとる「店舗リース」と言われる程、進んでいます。実は、すでに現在、4000近くのカレッジストアのうち、1000程度のカレッジストア(主に大学直営だったところ)がその「リース」に走ったようです。数年前(1995年)にハーバード・コープが米国大手チェーンのバーンズ&ノーブル社(B&N)に経営委託したことで、一定の衝撃が走りました。
 今年(1999年)はカリフォルニア州スタンフォード大学ブックストアでも直営から「リース」に切り替えました。私たちがこの問題に注目するのは、単に業者導入という形態の問題ではなく、「大学資産から収益をあげる」ことに邁進する現在の大学の動向です。
 一方で、アメリカは近年「我が代の春」の好景気が継続しています。インターネット事業の爆発がカレッジストアにどのような影響を与えるのか、また与えているのか、カレッジストアとしてインターネットを使った新しい事業に着手しているのだろうか、以前開始したカスタム教科書の行方は?
 そして、B&N社に「店舗リース」したハーバード・コープの実態は? 協同組合としての組織は存在しているのか。
 全米30大学の学生が活動をしている「スエットショップ(搾取労働)に反対する学生連合」についてのカレッジストアからの見解も聞きたい。
 このような動機で、前述した3カ所を回りました。

1. コーネル大学キャンパスストア

【ウェブ・ショップ】
 "Physical Shop"と"Virtual Shop"という考え方で説明。実際の店舗とウェブ・ショップのこと。
 ウェブ・ショップは昨年の11月からで、約110万〜120万ドルの売り上げ。

【ウェブ・ショップの展開1:マークもの編】

  • マークものは1500アイテム展開し、7万5千ドル売り上げてきた。そろそろ学習効果が出る時期。苦労のいくつかを紹介された。
  • 何を在庫からピックアップするか、これが大変であった。チャレンジだった。どのような写真にするかも苦労だった。
  • アップデートは週1回これが大変。
  • ただ、アクセスしてきた時に名前を記録するソフトが背後にある。

【ウェブショップの展開2:教科書・書籍編】

  • 学生は近辺に住んでいるのでウェブが特に必要というわけではないが、事前情報として1ヶ月前にみんなが知ることのできるようにしている。(競争との関係も)
  • ウェブ上で個人用の購入リストが作れるように、ストアのホームページから一人ひとりの個人ホームページ作成をサービスしている。これは次のセメスターにも使える。
  • 店に来る前にウェブで応えられるようにするのが目標。
  • もし、在庫がなかった場合、先生にも連絡し、1回目の授業用にその部分をスキャンしてアドビのアクロバットでウェブに載せている。その科目の学生はパスワードでアクセスできるし、印刷もできる。著作権のこともあるので、出版者に連絡を取り、確認を得る(「発行が間に合わなかったんだから良いだろう?」の調子)。
  • 教員が配布する「プリント」も、同様にウェブに載せる。要パスワード。
  • ウェブ・ショッピングのゴールは、ショッピングリストから出版社へリンクし、買えること。もちろん、マージンはコーネルストアに入るようにする。
  • このシステムには今期4000人の学生がアクセスした。シーズンとしては新学期中心なので、通年化を図りたい。
  • このシステムはNACS(全米カレッジストア協会)で採用している。
         http://www.collegestore.com

【教科書の競合について】

  • 例えば、www.varsitybooks.comやBaker&Tailorなど。人気のある教科書だけを40%OFF等で宣伝する。トラックでキャンパスに入ってくる事例も。コーネルでも。
  • しかし、コーネル大学に必要なものの50%程度。結局はあちこちを回って全部を手に入れるしかない。だから、1ヶ月前から情報を得て発信し、在庫保証をする。書籍特有のバージョン違いの問題も起きている。
  • カレッジストアのアドバンテージを確保、宣伝することが重要課題。

【カスタム教科書の現段階】

  • 現在は「コース・パッケージ」という言い方をしている。
  • 現在テキストの14%となっている。1学期で18,000のパッケージを提供。
  • データベース・ソフトとスキャナーを持っていれば、アウトソーシングは可能。ただ、スキャンを美しくするのに労力がいる。印刷は外部で。
  • ゼロックスのパック・ウェアを使っている。
  • 採用の75%が次の学期へ引き継がれるので、効率はいい。
  • データベースを細分化した。(前は1コース毎に1レコード、それを原資料毎に)
  • 「ギャマグラフィック」ソフトは、ウェブの機能を持っている。先生と連携できれば、先生のウェブと連動できる。

【店舗リースについて】

  • スタンフォードも4ヶ月前にリースになった。
  • 10年前の理由は「商売がうまくいかなくなった」からだったが、現在は、「いくら大きい商売をしても、規模が合わない、だからチェーンストアへ」という判断だろう。
  • われわれも、<Retail Alliance>(「共同事業」)を進めている。

【Retail Allianceについて】

  • 現在16の大きな店舗(Large Stores)でサプライーヤー向けの統一システムを作っている。
  • 当初はコネッチカット等8つのストアで始めた。
  • システムそのものというより「チャネルを売る」これで数%ダウン。

【キャンパスストアと大学との財務関係】

  • ストアは、コーネル大学事業部門の一つ。その中で、ストアは利益部門で、他はとんとん。
  • 年115万ドルを大学に・・・・毎年上昇。大学への上納金のようだ。
  • キャンパスストアは大学の一部門だけれども、B/Sも持って、会社のように運営している。店舗はこのストアの財政で買ったので「自社物件」である。(したがって、レント料はないのだが、レント料の表示をして黒を消している。→周りの小売業との関係もあって、あまり多い利益表示はできないから。
  • 利益が出ると言っても、競合の範囲内での値付けをしており(要するに、キャンパス外の小売り商店より大胆に安くして客を取るということはしない)、バランスをとった利益を出している。未来投資もしている、例えば、5人のプログラマーなど。

2. コネチカット大学生協

■“TO GO”

  • 新学期に学生から教科書の注文を受け、お渡し日に各授業の教科書を一括して渡す仕組みで、”TO GO”はその名称で「持ち帰り」という意味である。
  • その方法は、生協が新入生に申込書を送り、学生は署名をして返信する(大学のデータベースから自分の科目登録情報を引き出すことに同意するための署名)。その教科書を生協が揃え各個人用に袋に入れ、お渡し日に渡す。
  • 今年は新入生3000名中2700人が利用した。必要な教科書を簡便に揃え、行列の削減、競合対策にもなっている。
  • アマゾン.ドット.コム、バーシティー.コムは大幅ディスカウントで、赤字で売っている。今はコマーシャルマーケットをとることにねらいがある(何人アクセスしてきているかが重要で、宣伝と位置づけている)。これらの企業は全米で活動しているが、コネチカット大学の学生は「生協の値段は余り変わらないよ」と言っており、現在は対抗できている。
  • 商品動向ではコンピュータの取り扱いは減少し、女子バスケット部が全米で優勝したこともありマーク商品が増えた。

■Sweat Shop Menifacture

  • (これらをSweat Shop Menifacture)とは、発展途上国で低賃金・過酷労働で生産させている生産活動を言い、Tシャツなどがある。低賃金・過酷労働を強いさせているとして、今年になって特に大学生の間でTシャツに関して運動が始まったが、その中心はPIRG(Public Interest Research Group)とのこと。
  • 小売業としては対応が難しい。
     例えば、Nike。バスケットコーチがNikeを使うと決めるとNikeになる。
     大学へは、OLM(オフィシャル・ライセンス・マテリアル)の関係では生協は過酷労働商品は取り扱わないと言っているが、一方で、Nikeはそういう生産を行っている。
  • 理事会でも話題になった。教職員理事(スーダン、インド出身)は、過酷な労働というがそれはどこの基準かという問題がある。マンホールのふたはインドの小さな町でつくっているが、アメリカでは過酷となってもインドでは普通の基準ということ、「仕事がある」ということになる
  • この活動は今のところ生協の営業には影響はないが、理事会内外で問題になってきたら影響はでるかも知れない。例:数年前に大学内の学生寮でローソクによる火災があった。「どこで買ったローソクか」「ローソクは危険だ」ということになり、生協が販売したローソクではなかったが、生協は一時取り扱いを停止したことがあった。(生協での取り扱いは年間10万ドル)

■生協の施設使用料〜大学との関係

  • トレンドはプライベート化にあり、建物使用料は有料化の方向にある。レンタル料は売り上げに対して●%という率計算。コネチカット大学の生協の規模だと10〜12%。日本では売り上げの5〜10%か。
    • コネチカット大学では、生協がなかった頃、大学は業者とリースをしていた。
        業者は自分で建物をつくり、大学とは40年間無償リースとした。
         ↓
      業者の経営、店が良くなく生協を設立した。生協も同じ契約を大学と行った。その後25年間の契約延長をした。使用料は1ドル。
        ↓
       現在の問題点:現在は大学当局の契約者が代わり、「現金に価値がある」「契約の変更もあり得る」と現金を要求している。
  • 他の大学での使用料の状況は?
      売上高での一定率(約8%)、固定額、奨学金としての提供などの形態がある。
      多分、殆どはつくったお金を全部取られる(こういうことをCASH COWというそうだ)。
  • マサセーチュセッツ大学の場合:ブックストアをつくったが、その収益を大学へ提供させられている。大学はそれをフードサービス事業の損金の「補填」に使っている。
  • 大学との関係では店のプライベート化(リース会社契約)か、生協の賃借料のアップどちらが先か、という状況にある。

■新学期の活動

  • 6月 新入生が確定
    大学によるオリエンテーション(3日間)に生協も参加
    ・生協についての好印象を(学生、親)
    ・「TEXT BACK TO GO 」の紹介も
  • 7〜8月 夏休み
    教科書購入
  • 9月 新入生向けのオリエンテーション
     学生自治会の新入生へのオリエンテーション・リーダーに(20名)に、生協について説明し、上級生が新入生に語ってもらうようにした。

■組織運営

組合員 大学の入学手続きに含まれるので、自分が組合員という意識が生まれにくい。

  • 総会 9月
    理事会 毎月9回+7月
    理事会の下には4つの委員会があり、委員長は理事が担当し、組合員も参加している。
    ・選挙管理委員会
    ・定款委員会
    ・財務委員会
    ・組合員関係委員会(生協が行っていることなどの広報 )
  • 理事定数 16名...半数ずつ改選。
    学生8名
    院生2名
    教職員3名
    同窓会2名 以上、15名が改選対象。
    専務・社長1名
  • 立候補者 200名以上の賛同者名簿を提出する。

    ・理事選挙 学生自治会の役員選挙と同時に行う。22.000名中17.000〜20.000名 が参加する。WEB, E-MAILも使い可能な限り選挙に参加できるようにしている。

■日本からの職員研修の派遣問題(略)


3. ハーバード・コープ

 今回の視察の最大の目的はバーンズ&ノーブル社(B&N)に経営委託したコープを実際に見ること。1882年に学生のグループによって設立されたこのコープは「The Coop」の名称で、アメリカの大学コープをリードしてきたが、経営難のために、1995年コープ理事会は店舗の運営をB&Nに委託することを決定した。
 ハーバード・コープの一番大きな店舗はキャンパス外のハーバード・スクウェアのそばにある。ビルは2つ、Harvard Squareに面したビル、Brattle/Palmer Streetに面したビル。
 「HSビル」は書籍店舗になっていた。以前の書籍売場(B/Pビル内)に比べれば格段の進歩、以前は、棚は古くスカスカだったのが、少なくとも、新しい棚で、本もいっぱい詰まっている。以前の「HSビル」は紳士服など重衣料などが目立っていた。
 ハードカバーの本は店の判断で、10%引き、20%引き、30%引きとなっていて、客は本に貼ってあるシールでそれが分かるようになっている。店の棚の間には、ところどころに椅子が置いてあり、そこに座ってじっくり本が読めるようになっている。2階の奥にはコーヒー・ショップがある。これらのサービスは各地パワーセンターにあるB&N書店と同様の形態。棚の形もB&Nそのもので、色はワインカラーである。
 「HSビル」は、BF-3Fの営業であるが、近々4階も店舗にする予定。フルタイム・パートタイムの職員を募集していた。

BF:子供向けの本、在庫処分コーナー
1F:一般書 (1・2階は吹き抜けで、劇場風。2階は周回バルコニー形式)
2F:小説・文学、コーヒーショップ
3F:専門書(経済・社会科学、理工書等)、趣味・旅行書

 「B/Pビル」は、1F-3Fである。

1F:マーク物衣料・スポーツ用品、絵画
2F:文具、コンピュータ、コンピュータ・ソフト、AV小物
3F:教科書(レジ14台、このフロアと上記専門書フロアは渡り廊下で連結)

 全体を見ると、以前の紳士服・重衣料は撤退、スクウェアに面した店舗は書籍となり、「中途半端なデパート」から通常のカレッジストアになったという感じである。B&N社に委託する前はかなりオペレーションレベルが落ちていたということであろう。
 ある本を問い合わせたところ、「8月28日に売り切れた、現在注文中です。あっ、今日入荷しています。でも4階で段ボールに入ったままで、どこにあるか分からないので、今日は販売できない」との答え。在庫管理そのものはしっかりしていると見える。
 コープとしての活動は、少なくとも組合員拡大においては活発に見える。店舗の入口には加入申込書(Menbership Application)が置かれ、コープのミッション・ステートメントも入口近くに掲示されている。B&Nの名前は何処にも見あたらない。
 事業面では、98年度供給高は約4000万ドル(前年比▲0.12%)、GP率41.3%(前年比+4.0P)であり、経費が増加しても、税引き・割戻し前剰余は5.44%(前年比+1/46P)、累積剰余金は857万ドルを確保している。複雑な心境ではあるが数値上は好調な運営と言える。利用割り戻しは供給高の1.3%強となっている。ちなみに、事業年度は7/1-6/30。



1999年10月8日全国大学生協連理事会に報告

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