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コラボ・コープOB

生協のOB同士で、交流と意見交換を進める場とします。  自分のこと、お互いのこと、生協のこと、世の中のこと、―-協同・平和をめざして。

国際協同組合年(IYC)によって協同組合は何を変えるのか?

[管理人 少老朋友]

 労働者協同組合の研究機関である「協同総合研究所」についてはご存知の方が多いと思われます。その副理事長としてご活躍中の岡安喜三郎氏(元東大生協専務理事、元大学生協連専務理事)から、以下にご紹介する文書を送っていただきました。
 岡安氏が労働者協同組合の活動の場で5月末に2度ほど問題提起するために書かれたものですが、その内容は「協同組合間の協同」の発展、「日本協同組合連合会設立の構想」なども提起しており、私たち生協関係者も傾聴し、検討することが大事になっているのではないかと思われます。
  岡安氏のご了解を得て、「コラボ・コープOB」への「寄稿」として掲載させていただくことにしました。

「寄稿」

[岡安喜三郎]

国際協同組合年(IYC)によって協同組合は何を変えるのか?

~東日本大震災、福島原発事故に立ち向かう、協同組合のグランドデザインの構築を~

 一昨年12月、国連第64回総会は2012年を「国際協同組合年」(International Year of Cooperatives)と宣言し、加盟国をはじめ、国際機関、協同組合組織に、協同組合に関する取り組みを強化するよう決議しました。
 ちなみに、2012年については昨年12月6日の国連第65回総会の決議で、この協同組合年に加え「維持可能エネルギーのための国際年」(International Year of Sustainable Energy for All)とも宣言しています。福島原発事故もあり、国際的なエネルギー政策も大きく変わっていくでしょう。
 国連にはこの国際年以外に、国際十年も適宜設定され、また毎年の企画となる国際デーが設定されています。協同組合関連では、毎年7月の第1土曜日が国際協同組合デーですが、これは、元々ICA(国際協同組合同盟)が定めていたものを、1992年に国連がICA創立100年目の記念日である1995年の日を国際デーとして定め、それを毎年のものとして現在に至っています。

 国際年の取り組みは、日本でも「2012国際協同組合年全国実行委員会」が昨年8月に、経済評論家内橋克人氏を委員長に、経済学者宇沢弘文氏を名誉顧問に選出して発足しました。実行委員会の協同組合陣営でも、今までICAの加入団体で構成されていたJJC(日本協同組合連絡協議会)の枠を超え、すべての協同組合に門戸を開いたものになっています。
しかし、課題はもっと具体的にしなければなりません。今年3月11日の巨大地震と巨大津波、原発破壊と放射能汚染という巨大な複合災害からの復興にあたって、責任回避の「想定外合唱」への糾弾、天災に隠れた人災の原因究明はもとより、脱原発エネルギー政策の問題、財源の問題とともに、復興の主体者問題も大きな課題です。単なる復旧から「社会連帯を回復する契機となる仕組み」(金子勝、「世界」2011年5月号)が求められているのが、国際協同組合年の前年である今年です。
 協同組合は常に運動を伴います。運動は常に、その必要性を感じた志ある人たち(当事者とは限らない、出だしは一般的には少数)が、共感と賛同を広げ、実態づくりを進めます。自立的な活動とともに必要に応じて国の政策を変えていく活動ということになります。協同組合は責任を分かち合う組合員の事業という特徴があります。協同組合はその経済や文化、生活の可能性を実態化する取組みとともに制度化への運動で、社会に貢献することになります。

1.国際協同組合年を国連が定めた意味

 具体的な協同組合組織は英米風に言えば「組合員のもの」ですが、協同組合制度は市民のものです。要するに市民なら誰でも協同組合制度を十全に活用できる条件作りが肝要です。その文脈で、まず2012年国際協同組合年を国連が定めた意味を理解したいと思います。少なくとも、単に協同組合の現状を宣伝する機会として国際年があるのではないと思います。
 国連総会決議はその時々に直面する世界的な深刻な状況を打破するのに、市民参加と収入確保を融合している協同組合の手法が大きな役割を果たすこと、そのために様々な形態の協同組合を振興させる策が必要なことを謳いながら、一方で協同組合の(個々およびグループの)自己革新をも提起していることを想起する必要があります。
 もちろん、国連決議として国際年は、形式的・道義的に、各国政府にも協同組合振興策などの取り組みの義務を発生させます。その点で、国際年は協同組合運動と政府、ひいては地域社会との関係のステップ・アップをはかる良い機会だと思います。
 日本において、協同組合は何が変わるべきか、また、協同組合は何を変えるべきのかを問う必要があります。

2.国連等の協同組合の位置づけ

 国連は、一貫して協同組合の価値を高く評価しています。近年では、前述した国際協同組合デーを国連として設定した1992年の決議において、協同組合の発展を支援する環境づくりをめざす国連ガイドラインについて各国政府の見解を求めるよう国連事務総長に要請したことに始まりました。(「協同組合発展支援のためのガイドライン」は、2001年第56回国連総会の決議で公式承認されています。)
 1992年以降ほぼ2年毎に、「事務総長報告」と、それを承認する「社会開発における協同組合」決議(1996年までは「新しい経済・社会の趨勢から見る協同組合の役割」という題)がされ、協同組合の振興が提起されています。
 1994年以降の決議は一貫して、冒頭に「協同組合が、様々な形態によって、経済的社会的発展に、女性、青年、高齢者、障碍者、先住民などすべての人々の十全たる参加を促進すること」を認め、協同組合の社会参加機能を端的に明らかにし続けてきたのが特徴です。
 社会への十全たる参加とは、ILO(国際労働機関)の2002年協同組合振興勧告も含めた文脈からすれば、ディーセント・ワークによる就労の確保に言及していることになります。またこの参加の促進は、様々な協同組合の存在によって担保されることも強調しています。
 2012年を国際協同組合年とする宣言は、これらの認識に立ってなされたものであり、加盟国、関連国連機関、各種協同組合組織が、この国際年を契機に様々な取り組みを推進すること訴えています。その点では、決して既存協同組合だけの企画であってはなりません。
 日本の国際協同組合年全国実行委員会もその姿勢で、広範な人々を巻き込んで組織されつつあると思います。

3.ILO「協同組合振興勧告2002」(193号勧告)

 国連の協同組合に関する政策に言及する限りは、同じ国際機関としてILOが、2002年総会で採択した「協同組合振興勧告2002」に言及する必要が生じます。
 ILO(国際労働機関)は社会正義と国際的に承認される人権および労働の権利を推進するために第一次世界大戦後の1919年に非政府組織として設立されました。現在は国連の専門機関の位置にあります。ICA(国際協同組合同盟)は、ILO憲章第12条で規定された、ILOの協議機関の位置にあります。ILO総会は、政府代表、使用者代表、労働者代表の三者構成で、毎年6月頃に開催されます。
 その2002年ILO総会で、193号勧告が、賛成436、反対0(棄権3)で採択されました。もちろん、日本の政府、使用者、労働者の三者代表も賛成しています。この討議の総会には、協同組合代表としては労働側のオブザーバーとして、日本労働者協同組合連合会から故菅野正純理事長(当時)が参加して積極的に論議に参加しました。
 このILO勧告で、協同組合が目標とすべき2つのキーワードが提起されました。それは、「ディーセント・ワーク」と「インフォーマル経済で働く人々」です。どちらもILOとしては以前から言及されていましたが、この勧告で改めて協同組合の目標に位置づけられました。
 ディーセント・ワークは「まともな労働(仕事)」と直訳できますが、その説明は2つの点に集約できます。まず、その内容は、権利が確保され、十分な収入を得、適切な社会保障のある、同時に社会対話のある生産的で生きがいのある仕事であること。そして、ILOのフィラデルフィア宣言(1944年採択)にある、自由、公平、保証、人間の尊厳という基本原則に基づいていることであるとされます。現在の「雇用状況」は、世界的に見てもディーセント・ワークの不足・欠如が克服されるどころか、ますます助長されています。改善することは容易ではありませんが、ディーセント・ワークの確保は決して避けてはならない課題です。
 インフォーマル経済で働く人々とは、一般的には、法律や制度に拠ってでは、その人たちが就いている仕事、もしくは彼ら自身の存在が認知されておらず、規制や保護を受けていないというのがキー概念となる人々のことを言う、とされます。
 留意すべきは、インフォーマル経済は非合法ビジネスと必ずしも同一ではないということも言われます。逆にほとんどが合法的な生産、サービス活動を行っています。勧告では、「(時々「インフォーマル経済」として引き合いに出される)多くの場合かろうじて生活をつなぐギリギリの生存活動であるものを、法的に保護された労働、経済生活の本流へと完全統合する労働に転換する際、政府は協同組合の重要な役割を高め、その方法を促進するべきである」(第9項)と述べています。
 インフォーマル経済には、同じ2002年のILO総会の別議題で、「今日、非常に多くの人がインフォーマル経済で働いているが、それは彼らがフォーマル経済では職を得られないとか、事業を始めることができないなどの理由によるものである」(「ディーセント・ワークとインフォーマル経済に関する結論」第2項より)と、その拡大背景を指摘していますが、これはリーマンショック後の日本を見るまでもなく、インフォーマル労働の範疇をきちんと見極めることが求められていると言えます。
 これらは、協同組合が現在の社会状況・労働状況をどのように見て、自らの事業や活動を問い直す契機にするべきかを勧告しているものでもあります。

4.2012年はICAアジア太平洋地域総会の年

 2012年は同時に、ICAにとってはアジア太平洋地域総会(ICA-AP地域総会)が開催される年でもあります。すでに先のICA-AP北京総会(2010年9月)で次回は日本と決定されました。JJC(前述)は2012年11月26日から30日まで神戸開催で受け入れることを決めています。(ちなみに、「いま協同を拓く協同集会」(いわゆる協同集会)は、同年同月に、ここ埼玉で予定されています。)
 ICA-AP地域総会は、ICAに加入するアジア太平洋地域(具体的にはアジアとオセアニア地域)の協同組合の総会ではありますが、併催されるシンポジウムも含めた運営はICAのグローバル理事会が深く関与しており、グローバルな国際交流の場となっています。
 この場において、東日本大震災復興、エネルギー政策のシフトを、協同組合がどのように関与してきたかが、大きな関心事となります。

5.東日本大震災、福島原発事故に立ち向かう、協同組合として何を変えるのか?
 協同組合は、国際協同組合年を契機に、日本を元気にする市民社会(civil society)の一員となるべく、大きく脱皮することが求められていますが、何よりもそれを、巨大地震と巨大津波、原発破壊と放射能汚染という巨大な複合災害からの復興、東日本大震災・福島原発事故からの復活、新しい日本社会創出の場において実践し明らかにする時です。国連やILOの言う協同組合の潜在力を顕在化するためにも、協同組合陣営が一丸となって、現在の事態に立ち向かうことにあります。
 東日本大震災・福島原発事故を契機に日本は大きく変わろうとしています。変わらなければなりません。協同組合も変化していく必要があります。それは、生協が生協内で、農協が農協内で変化することを言うのではありません。協同組合は、地域住民の全生活のために何をするかです。今回の震災、放射能災害は、協同組合の新たな産業・事業構築が求められています。(森林組合と漁協、生協の「一体化」、ワーカーズコープの手法<特に「三つの協同」>による地域産業興し、要するにコミュニティ協同組合などの検討。復興当事者は、消費者であるけれども、同時に収入を得る労働を必要とし、農漁民・中小事業者は生産活動を行うという多様な(マルチな)側面を同時に持っているので、既存の機能分化的協同組合では十分な対応にならない。「協同組合復興会議」の必要性がある)
 すでに災害復興において、一方には漁業の復興には漁協を差し置いて株式会社が必要だとかの「合唱」が始まりましたが、一方で、協同組合(協同事業組織)の必要性を説く著名人が現れています。それは、多様な協同組合を設立できる制度の必要性でもあります。先ずは、G7に存在しながら日本にはない、「協同労働の協同組合法」の制定があります。特区でも良いから速やかに制度が必要です。これは国連やILOの提起する協同組合の役割の根幹を成すものです。
 すなわち、誰でもが協同組合を通じて社会参加(当面の焦点は複合災害からの復興)のできる制度を保証する点でも、必須の制度構築です。東日本大震災、福島原発事故に立ち向かい、地域主権、脱原発エネルギー文明など、新しい日本を作っていく上で、協同の価値(分散型意思決定組織でもある)、使い勝手に良い協同組合の存在を明らかにする必要があります。
 これは、協同組合自身が、中央縦割り組織から地域段階での横の連帯へと移行することでもあります。そうすることによって、連合など労働組合が進めているワンストップ・サービスと協同組合が連携できることになります。そうすれば、先の国連やILOが期待する協同組合の役割に大きく近づくことができると思われます。
 こうすることによって、協同組合は、さまざまな形態の下で、地域との具体的なつながりが再構築されるのではないかと思います。

6.「縦割りバラバラな協同組合」の克服が地域・日本を変える

 戦後60年、日本の協同組合は、すべての協同組合を包括する自らの連合会・協議会を持つことはありませんでした。しかし、2012国際協同組合年の様々な企画は、それを本気に社会に訴えるには、日本協同組合連合会設立が必然的に必要となると思われます。
 その第一の契機は、各界の著名人とともに、オール協同組合の結集を図る全国実行委員会の結成です。これが単なる「協同組合のための動員」(端的には2013には委員会が解散して何も残らないこと)なら、各界から参加された人たちに余りにも失礼ですし、協同組合の見識が問われます。
 第二には、先に述べた通り、巨大な複合災害からの復興への貢献は、個々の協同組合がバラバラでは力が発揮されません。逆にバラバラでなくなった時、「協同組合復興会議」のような活動で、地域における協同組合の真の社会的価値が「見える」ことになります。
 そして第三に、連合会は協同組合を世間に「見えるようにする」(ICA)もっとも分かりやすい形態であるからです。例えばTPPや雇用問題、原子力エネルギー問題など、国民がもっとも関心のある国家政策に、協同組合としての統一した見解を持ちうるならば、協同組合は国家政策に関与できる主体となることができます。どんな意見があろうとそれらの「熟議」の上に、国家はある政策を選択しなければならないからです。それは地域・地方自治体の政策でも同様です。めざす協同組合は、現実の政治と経済を変え、社会を支える協同組合です。
 2012国際協同組合年を、日本の協同組合運動の新しい地平を拓く機会にしたいものです。

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