東京からハノイへ
――協同組合と青年の未来のために――

2002.6.23 岡安喜三郎

 昨年東京で開かれた「 ICAアジア太平洋地域協同組合青年セミナー (第1回)」(以下東京セミナー)から1年を経た。

 本誌発行後の7月中旬、ベトナム・ハノイ市で「ICAアジア太平洋地域青年代表者会議」が開催される。ICAアジア太平洋地域事務局(ICA-ROAP)の召集で各国から青年の代表が集まり、昨年の東京セミナーにおいて参加者がまとめた「勧告」を受けて、今後の青年の活動の展望を検討する会議である。その中には2003年、マレーシア開催(予定)の第2回青年セミナーの内容検討も含まれている。

 21世紀に入ってからの東京セミナーに先立ち、1996年、1999年の2回、「ユース/キャンパス・セミナー」が開催されている。これらはその名のとおりキャンパス内の協同組合、すなわち大学生協やスクール・コープ(教員・高校生などが組合員・理事になっている協同組合)の青年を中心に、他の協同組合の青年を巻き込んだセミナーで、その主催もICA-AP生協委員会の下にある大学生協委員会によるものであった。

 21世紀に入ってからはICA-ROAPが主催し、開催ノウハウを持っている大学生協委員会が協力するセミナーとして、すなわち全分野の協同組合の青年が対象になるセミナーとして開催することとし、先の東京セミナーが第1回となり、来年第2回が予定されている。

 青年セミナーは何のために開かれるのか、そして開かれ続けられるべきか。それは「協同組合と青年の未来のために」ということに帰着する。そのポイントは青年に協同組合の原点、青年と協同組合とを結ぶ哲学を紹介し続け、あるべき青年と協同組合との関係を作り上げるプロセスの一つとして位置づけることにあろう。

 先日、青年のテーマで協同組合関連研究所の方と意見交換の機会があり、あらためて青年と協同組合との関係について考えさせられた。

協同組合と青年の関係は実践的には「協同組合と青年の参加」というテーマとなる。しかしこれは必ずしも「既存」の協同組合への運営参加のみではない。もっと大切なのは協同組合運動への青年の参加・参入の課題として捉えるものなのではないかと思っている。もちろんこれは形式論理的に言えば青年に限るものではなく、女性、高齢者、障害者、長短の失業者と置き換えても成立するし、今月(2002年6月)採択されたILOの協同組合新勧告もこの文脈で捉えることができる(ただしILO新勧告には青年への言及はなかった)。

 特に、労働者協同組合では明瞭なのであるが、青年の参加は単に既存の労協に入ることとか労協内の運営参加をどうするかだけでは全く事の本質が把握できないのである。労協は仕事起こしを旨とするする協同組合として、社会経済情況と起業とを結びつけることが必定なので、青年の参加とは青年自身が他の仲間と新しい労協を設立するという内容が常に含まれる。そういう意味では「労協における青年の参加」と言っている「青年」とは、現在労協で働いていない青年でもあるという点が認識される。

 このことは実は一セクターである労協だけに限定すべきものではなく、協同組合総体として青年(もちろん前述したように青年だけでもない)に何ができるかの課題である。特に、「協同組合と青年の参加」というテーマでは大きく2つのことが追求されなければならないと思われる。

 第1は既存の組織における青年の事業運営参加と他協同組合との交流の強化にある。この青年とは組合員と労働者の双方を対象にする。未来のリーダーとなる青年たちの可能性をタテとヨコに拡げることによって、青年の自己成長力を支援する方策が求められよう。
これは企業内教育だけでは不可能である。仮に同じレベルの「忠誠度」をもった幹部で、同一企業文化内で育った幹部と、異なる企業文化を知った幹部、より広く濃化された自分なりのネットワークを構築している幹部とを比較したとき、どちらがその企業の未来、社会性・発展性を保証しうるか、ではそれをいつ育成するのか、トップマネジメントにとって思案のしどころである。

 第2は、多くの青年が抱える問題に対して解決案(ソリューション)の提供できる協同組合運動として、協同組合運動の社会性を高めることにある。NPOが一時、社会や地域に役立ちたいと思う青年に対するソリューションとして注目されたが、「生活のできる仕事」としては厳しい現実が各方面から明らかにされてきた。
新しい生き方・働き方を求める青年に対しソリューションを提供できること、それはすなわち青年にとって魅力ある協同組合運動ということである。そして魅力ある協同組合を青年に伝えられるのは誰かということになると、それがまた同世代の青年ということになる。同世代に向けて発信できる青年リーダーがいることはその組織の未来をより確かにするに違いない。

(おかやすきさぶろう 協同総研専務理事)



協同の發見6月号収録(2002.6)

戻る